それは突然の発表だった。中国外務省は11月22日、日本人に対する短期の訪中ビザ免除措置を11月30日から再開すると発表した。さらに今回の措置は、以前行われていた15日の滞在可能期間から倍となる30日に拡大され「まさにサプライズだった」(日中関係筋)と日本政府の関係者からも驚きの声が上がった。
これまで日本政府や経済界の関係者は、中国を訪れる度に中国側の要人に対して短期ビザ免除措置の要望を伝えてきた。これに対して、中国側は「相互主義」に基づき日本側にも同様の対応を要請してきた。しかし「日本の世論が中国人のノービザを受け入れるわけがない」(日本政府関係者)というように、話は平行線のまま終わっていた。
契機となったトップ会談
一向に進まなかった短期ビザ免除の再開だが、11月15日に南米のペルーで石破茂首相と習近平国家主席のトップ会談をきっかけに動き出すことになる。
会談では「戦略的互恵関係」の推進が確認され、会談後、石破首相は「習主席自身が(合意に)言及をしたことは非常に重いものがある」と語った。同行筋は石破首相が直接、習主席と会談を行ったことについて「前向きな回答を引き出すことができた」と成果を強調していた。実際、この会談が終了してから「中国の旅行代理店などに日本のビザ免除再開に向けて準備をするように指示が出た」(日系の旅行代理店関係者)というように、中国国内では11月中に動きがあるのではと機運が高まっていた。
なぜこのタイミング?
これまで頑なに短期ビザ免除措置を認めてこなかった中国が、このタイミングでなぜ解禁したのか。
その理由の一つに、アメリカのトランプ次期大統領が2025年1月に就任することが挙げられる。トランプ次期大統領は中国製品に対して最大60%の関税など輸入品の引き上げを公約するなど強権的な対応を取ることが予想されている。中国としては、米中対立が激しくなるのを見据え、日本との関係を安定させたい思惑があるとみられる。
今回発表された短期ビザ免除の対象となったのは、日本のほか、東欧など8カ国だ。中国経済の低迷が長期化する中、日中間だけでなく各国との人的往来を活発化させ、投資や観光客を呼び込む狙いもあるだろう。いずれにしても中国側の歩み寄りによって、日本が求めてきた短期ビザ免除措置は一気に実現した。