飯能市の人気クライミングスポット「阿寺の岩場」、年内閉鎖へ 二子山訴訟の影響で地権者が不安

埼玉県飯能市にあるクライミングの聖地、「阿寺の岩場」が、2024年末で閉鎖されることになりました。この決定は、小鹿野町の二子山で起きたクライマー墜落事故を巡る訴訟の影響を受けたもので、土地所有者が将来的な事故への責任を懸念しての判断です。首都圏からのアクセスも良く、初心者から楽しめる人気のスポットだけに、クライミング愛好家にとっては大きな痛手となるでしょう。

利用者の声と地権者の苦悩

阿寺の岩場でクライミングを楽しむ人々阿寺の岩場でクライミングを楽しむ人々

阿寺の岩場は、地元住民の大野文雄さん(84)らを中心としたボランティアの努力によって2013年にオープンしました。市の補助金などを活用し、3年かけて樹木を伐採、岩の泥を取り除くなど、整備に尽力してきた経緯があります。幅約50メートル、高さ平均20メートル、傾斜も多様な岩場は、初心者から中級者まで幅広い層に親しまれてきました。週末には20~30人のクライマーが訪れ、講習会も開催されるなど、活気に満ちた場所でした。駐車場やトイレも整備され、利用者からの環境保全費、駐車料金、トイレ使用料で運営を維持し、岩場の修繕にも充ててきました。

土地は地元の女性(85)が無償提供していました。地域発展への貢献を願ってのことでしたが、高齢ということもあり、二子山の訴訟を知って不安を募らせていました。「事故が起きたら対応できない。路上駐車の苦情も出ている」と、閉鎖の理由を語っています。

クライマーたちの落胆

11月下旬、「年内閉鎖」の看板が設置されると、長年利用してきたクライマーからは落胆の声が上がりました。「開放当初から利用しているので残念。でも、事故が起きたらと思うと仕方ない」と、ある男性(66)は複雑な心境を吐露しました。

安全対策と存続への願い

阿寺の岩場への通路に掲示された閉鎖のお知らせ阿寺の岩場への通路に掲示された閉鎖のお知らせ

大野さんたちは、これまでボルトの整備など安全対策に力を入れており、事故は一度も起きていませんでした。利用規約にも「利用は自己責任」と明記し、地権者やボランティアの責任を免除する条項も設けていました。それだけに、今回の閉鎖は誠に残念な結果となりました。大野さんは「なんとか存続できないか」と、今も模索を続けています。

専門家の見解

埼玉県山岳・スポーツクライミング協会の加藤富之会長は、「岩場は利用者の良識と地権者の善意で成り立ってきた。最近は社会情勢の変化やマナー違反で閉鎖が増えている。阿寺の岩場は初心者の学習に貴重な場所。協会としても継続を検討したい」と述べています。

日本勤労者山岳連盟の川嶋高志理事長(仮名)は、「クライミングは元々危険を伴う冒険的な活動であり、事故は自己責任とされてきた。しかし、五輪種目になるなどスポーツ化が進み、岩場所有者や管理者の責任が問われるケースも出てきている。欧米では法整備が進み、ルートごとにスポーツか否かを区別する国もある。日本でも早急な法整備が必要だ」と指摘しています。

二子山訴訟の背景

二子山訴訟は、2022年9月に岩場から墜落し重傷を負った男性が、岩場の管理が不適切だったとして、小鹿野クライミング協会と小鹿野町に慰謝料などを求めて提訴したものです。協会と町は「事故は自己責任」と主張し、争いは続いています。この訴訟が、阿寺の岩場の閉鎖に影を落とす結果となりました。

この閉鎖は、クライミング界全体にとって大きな課題を突きつけています。安全対策と利用者の責任、そして法整備の必要性について、改めて議論を深める必要があるでしょう。