「痩せたい」「痩せなきゃ」「痩せられない」――現代社会において、この呪縛に囚われている人は非常に多いのではないでしょうか。行列のできるレストラン、SNSを彩る話題のスイーツ、そして日々の仕事や子育てに追われる中で、美味しいものを食べることは至福のひとときです。しかし、そうした誘惑と忙しさに流されるうちに、いつの間にか「お腹まわりが気になる…」といった悩みを抱え、大好きな甘いものやビールを我慢する辛いダイエット生活に突入してしまいます。ダイエットが好きという人はまずいませんし、ダイエットをしたことがないという人も珍しいかもしれません。
私自身もかつては、この「痩せなきゃ」という強迫観念に深く囚われていました。子ども時代からクラシック・バレエを続けていたため、元々痩せ型でしたが、大学進学後にバレエをやめ、運動量が激減すると体重は増える一方でした。周りから見れば十分に痩せているにもかかわらず、体重計の数字に一喜一憂する毎日。恋愛や進路の悩みなど、様々な不安を抱える中で、「痩せればきっと全て解決する」という誤った思い込みがあったのです。「痩せればきれいになる」「痩せれば羨ましがられる」「痩せれば自分に自信を持つことができる」――そう頑なに信じて疑いませんでした。しかし、この考えが根本から間違っていたことに気がついたのは、フランスに渡り、数多くのパリジェンヌと仕事をするようになってからのことでした。
「痩せなきゃ」という呪縛に囚われていた過去
幼少期からバレエに打ち込み、常にスリムな体型を保っていた私。しかし、大学に入学しバレエを辞めた途端、それまで維持していた運動習慣が失われ、体重はみるみるうちに増加していきました。痩せ型だった私にとっては、この変化が大きなストレスとなり、体重への異常なまでの執着が生まれたのです。
鏡を見るたびに、また体重計に乗るたびに、増えた数値を気にしては落ち込む日々。周囲の友人は「全然痩せてるよ」と慰めてくれましたが、私の心の中では「痩せなければ価値がない」という強固な信念が芽生えていました。当時の私は、恋愛がうまくいかないのも、将来の進路が決まらないのも、すべて「痩せていないからだ」と本気で考えていたのです。当時はそれが自分を奮い立たせる原動力だと信じて疑いませんでしたが、今思えば、それは自分自身を深く傷つけ、追い詰める呪縛に他なりませんでした。
ルイ・ヴィトン勤務で出会った「ダイエットしない」パリジェンヌの衝撃
大学でフランス語の魅力に惹かれ、卒業後には憧れのパリの大学院へ進学した私。そして2004年、縁あってラグジュアリーブランドの最高峰であるルイ・ヴィトンのパリ本社に入社することになりました。担当したのはPR(広報)職。まさに「人付き合いが仕事」と言っても過言ではない毎日が始まりました。メディア関係者との会食、カクテルパーティーへの出席、毎晩のように招かれるディナー。華やかな社交の場は、同時に食事の機会も増えることを意味しました。当然、私の体重は確実に増え続け、入社当時から5キロ増、ひどい時には10キロもオーバーしてしまうこともありました。体重計とにらめっこしながら、ダイエットに明け暮れる日々が続きました。
しかし、そこで私を驚かせたのは、同じように毎日のように会食をこなしているはずの同僚のパリジェンヌたちの姿でした。私のように必死にダイエットをしている人は一人もいません。体型は人それぞれで、もちろん皆がモデルのように痩せているわけではありませんが、肥満体型の人もいません。そして何よりも衝撃的だったのは、彼女たちがカロリー計算など一切せず、デザートまでしっかりと楽しみ、しょっちゅうワインを飲んでいることでした。
それでも、彼女たちは皆それぞれ「自分らしい体型」を自然に保ち、急激に太ったり痩せたりすることがありません。健康的な輝きを放ち、内面からあふれる魅力と自信に満ちた女性ばかりで、心から「素敵だな」と憧れてしまうほどでした。
パリの街並みを背景に、洗練されたパリジェンヌのライフスタイルを象徴する女性の姿。無理なダイエットに縛られない、健康的で自信に満ちた美しさを表現。
パリジェンヌが「ダイエット嫌い」と語る真意
「そんなうまい話、信じられるわけがない」。きっとあなたはそう思うでしょう。私もそうでした。何らかの秘訣やカラクリがあるに違いないと確信し、ある日、思い切って同僚のパリジェンヌに「本当にダイエットをしていないの?」と尋ねてみました。すると、彼女から返ってきたのは、驚くほどあっさりとした一言でした。
「ダイエットは嫌いよ」
そしてその理由を問うと、彼女は明確にこう答えました。「無理なダイエットをしても老けるだけだから」。この言葉は、まさに私の目から鱗が落ちる思いでした。パリジェンヌは「痩せればきれいになる」とは考えていないのです。むしろ、無理な食事制限や過度な運動は、肌のハリを失わせ、顔に疲れを刻み、心までも荒廃させると理解しています。だからこそ、痩せている人を見ても「羨ましい」とは感じないのです。
パリジェンヌにとって、ダイエットは本末転倒な行為なのです。「きれいになりたい」と願うならば、「痩せること」だけにこだわるべきではない、というのが彼女たちの揺るぎない信念です。決してダイエットはしません。無理を続けることが、肉体の衰えや心の荒廃を招き、確実に人を老けさせることを彼女たちは深く理解しているのです。
では、パリジェンヌが何もしていないのかと言えば、決してそうではありません。彼女たちは常に自分磨きに余念がなく、その結果として魅力的で自信と落ち着きに満ち溢れています。この連載では、そんなパリジェンヌの美の秘訣に深く迫り、彼女たちが実践する「自分らしい美しさを引き出すための習慣」をすべて公開していきます。私は医者でもダイエットの専門家でもありませんが、20年近くパリジェンヌの生活習慣を間近で見て、実践してきた者として、これだけは自信を持って断言できます。体重への執着を捨て、自分の体型や体調を心から大切にすることを覚えれば、誰でも本来持っている自分自身の美しさを最大限に引き出すことができるのです。
「痩せる」執着を捨て、「自分を労わる」パリジェンヌ流の美学
敢えて強調しますが、この連載で紹介するのは、世間に出回っているような「痩せるコツ」が書かれたダイエット本とは一線を画します。言い換えれば、この連載の目的は「痩せるため」だけにあるのではなく、「最高の自分であるため」にあります。パリジェンヌたちが日々実践しているライフスタイル、食習慣、そして自分らしく輝くための「神習慣」について、具体的に紹介していきたいと思います。
私自身が「もっともパリジェンヌな日本人」と称されるまでに至った経験から厳選した、珠玉の習慣ばかりです。どれも毎日の生活に簡単に取り入れられることばかりですので、ぜひ、できることから始めてみてください。
「痩せることだけ」を目的とした無理なダイエットは、今すぐやめてみましょう。そして、ゆっくりと自分自身と向き合う時間を取り、体の声に耳を傾け、心の機微に敏感になってみてください。パリジェンヌの最大の秘訣は、自分を苦しめることではなく、心から自分自身を労わり、慈しむことにあります。
驚くかもしれませんが、自分自身を慈しみ、大切にすることを最優先するだけで、まるで別人のように魅力的で自信に満ちた自分へと変わっていくことができるのです。さあ、今からでも決して遅くはありません。「痩せることこそが美しさだ」という固定観念は、今すぐ捨て去ってください。そして、あなたらしい唯一無二の魅力を、一緒に引き出していきましょう!
参考文献
- 藤原 淳 著『パリジェンヌはダイエットがお嫌い』(ダイヤモンド社)