韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が2024年12月3日夜に突如、非常戒厳を宣言し、韓国社会に衝撃が走りました。翌朝には解除されましたが、この異例の事態は、韓国の民主主義のあり方を問う大きな試練となっています。一体何が起きたのか、そしてその背景には何があるのか、詳しく解説します。
非常戒厳宣言の真相:窮地に追い込まれた大統領の焦燥
尹大統領は戒厳令発動の理由を、北朝鮮の脅威と「反国家勢力」からの防衛、そして憲法秩序の維持だと説明しました。しかし、真の理由は、尹大統領自身が政治的に追い詰められていたことにあると見られています。
支持率低迷と政治的苦境
2022年5月に就任した尹大統領ですが、今年4月の総選挙で野党が圧勝して以降、レームダック(死に体)状態に陥っていました。国会での法案成立は困難になり、野党の法案への拒否権発動だけが可能な状況でした。
尹大統領
さらに、大統領夫人をめぐる汚職疑惑や株価操作疑惑も浮上し、支持率は17%前後という低水準で推移していました。先月にはテレビで謝罪し、ファーストレディーの職務を監督する事務所の設置を表明しましたが、野党が求める本格的な捜査は拒否しました。
そして今週、野党は政府予算案の大幅減額を提案。大統領には予算案への拒否権がないため、苦境に立たされていました。同時に、複数の閣僚や検察幹部についても、大統領夫人への捜査を怠ったとして弾劾を求める動きが出ていました。
国民の抗議と野党の迅速な対応
非常戒厳宣言を受け、多くの国民が国会議事堂周辺に集まり抗議の声を上げました。国民は戒厳令の意味するところに混乱しましたが、野党は迅速に動きました。与党議員の協力も得て、国会として戒厳令解除の要求を決議しました。
憲法の規定と民主主義の力
韓国憲法では、国会が戒厳令解除を要求した場合、政府はそれに従わなければならないと規定されています。また、戒厳司令部による議員の拘束も禁じられています。これにより、軍による首都掌握という事態は回避されました。
韓国民主主義への影響:専門家の見解
尹大統領の性急な行動は、韓国社会に大きな衝撃を与えました。国民は自国を近代民主主義国家と認識しており、今回の出来事は数十年で最大の試練と捉えられています。
梨花大学のレイフ=エリック・イーズリー教授は、尹大統領の行動を「法的に無理があり、政治的にも判断ミス」と指摘。韓国の経済と安全保障を不必要に危険にさらしたと分析しています。また、イーズリー教授は、スキャンダルや弾劾要求など、尹大統領の苦境は今後さらに深刻化すると予想しています。
今後の展望:混迷を深める韓国政局
今後の展開は不透明ですが、国民の不安は高まっています。3日夜には「尹錫悦を逮捕しろ」という抗議の声も聞かれました。
今回の事態は、韓国の民主主義の成熟度を試す試金石となるでしょう。今後の政局の行方から目が離せません。