国立劇場の再開発計画が難航し、日本の伝統芸能界に暗い影を落としています。2度の入札不調を受け、計画の大幅な見直しは避けられない情勢となっています。
国立劇場の外観
老朽化と再開発の難航
築60年弱を迎えた国立劇場は、老朽化が進み、舞台機構の修繕が必要な状態です。2020年にはホテル併設などを含む再整備計画が発表され、PFI方式での事業者選定を目指していました。しかし、2度の入札は不調に終わり、計画は暗礁に乗り上げています。
伝統芸能界への影響
歌舞伎俳優の中村萬壽氏は、「閉場から1年以上経っても進捗がないのは読みが浅かったと言わざるを得ない」と現状を厳しく指摘しています。歌舞伎はもちろん、日本舞踊など多くの伝統芸能にとって国立劇場は重要な上演拠点でした。特に、花道は歌舞伎や日本舞踊の演出には欠かせない要素であり、代替となる会場は限られています。中村氏は、「日本舞踊の人たちにとって適した会場は少ない。踊りを披露する場がないことは死活問題だ」と危機感を募らせています。このままでは伝統芸能の継承にも悪影響が出かねないと懸念されています。
歌舞伎役者の中村萬壽氏
建設業界の現状と再入札への課題
不動産コンサルタントのさくら事務所、長嶋修会長は、「今は建設側が圧倒的な売り手市場。建設会社にとっては、無理をしてまで国立劇場を受注する必要がない」と指摘。人手不足も深刻化しており、国立劇場のような大型案件をすぐに引き受けられる企業は少ないのが現状です。
コスト高騰と予算の壁
当初約800億円と見積もられていた事業費は、資材高騰や人件費上昇の影響で約1400億円に膨れ上がっています。政府は追加予算として200億円の上乗せを検討していますが、それでも不足する可能性があり、事業者にとって大きな負担となっています。
部分改修案と全面建て替えのジレンマ
一部からは設備の部分改修で済ませる案も出ていますが、国立劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)は全面建て替えの方針を変えていません。芸文振は、「部分改修でも大掛かりな舞台機構の取り換えなどが必要となり、全面建て替えに匹敵する事業費と工事期間がかかる」と主張しています。
今後の展望
有識者検討会は「次の入札がラストチャンス」と強い危機感を示しており、ホテル併設の必須条件を撤廃するなど、入札条件の緩和を検討しています。関係者一同、一日も早い再開発実現を願っていますが、先行きは不透明なままです。伝統芸能の未来を守るため、関係各所の英断が求められています。