ムスリム土葬墓地不足の現状:本庄児玉聖地霊園の取り組みと課題

日本で暮らすムスリム人口の増加に伴い、土葬墓地の不足が深刻な問題となっています。火葬が主流の日本では、ムスリムの宗教的慣習に沿った土葬を受け入れる墓地は限られています。この記事では、ムスリム土葬を受け入れる数少ない霊園の一つである埼玉県本庄市の本庄児玉聖地霊園の事例を通して、土葬墓地不足の現状、そしてその運営における課題や地域社会との関係性を探ります。

ムスリム土葬と地域住民の反応

本庄児玉聖地霊園は、ムスリムの土葬を受け入れている先進的な霊園です。周囲に民家が少ない立地条件も、受け入れをスムーズに進める要因となりました。霊園管理者の早川壮丞氏(77)によれば、住民からの強い反対は特になかったとのことです。

ムスリム区画の様子ムスリム区画の様子

近隣住民への取材では、過去の産業廃棄物不法投棄問題と比較して、土葬による環境への影響は少ないという意見がありました。一方で、夜間に霊園へ向かうムスリムの姿に違和感を持つ住民もいることが明らかになりました。本庄市役所も、市民からの問い合わせや懸念の声があることを認めています。行政としては、土葬の可否は霊園の経営・管理者の判断に委ねられているという立場です。

墓じまいの増加と今後の展望

土葬受け入れに伴う課題も浮き彫りになっています。ムスリムの土葬を嫌がる既存利用者からの反発があり、墓じまいを選択するケースが増えているのです。早川氏によると、日本人墓地の区画数は最大270基から115基にまで減少しました。「ムスリムと一緒は嫌だ」という声を受け、日本人墓地からムスリム墓地が見えないようにする工事も計画されています。

霊園内のムスリム区画には見慣れない墓が並ぶ霊園内のムスリム区画には見慣れない墓が並ぶ

土葬自体は法律で禁止されていませんが、自治体の条例に適合し、許可を得る必要があります。しかし、住民の反対によって計画が頓挫した事例も少なくありません。栃木県足利市では、日本イスラーム文化センターによる墓地建設計画が住民の猛反対により中止となりました。この出来事の後、同センターは本庄児玉聖地霊園にムスリム向け区画の購入を打診した経緯があります。

多文化共生社会の実現に向けて

本庄児玉聖地霊園の取り組みは、多文化共生社会の実現に向けた重要な一歩と言えるでしょう。しかし、宗教的慣習の違いに対する理解不足や偏見は依然として存在します。土葬墓地不足の問題を解決するためには、地域住民との対話、相互理解の促進、そして行政による適切な支援が不可欠です。「宗教的慣習の尊重」と「地域住民の理解」という二つの課題を乗り越え、共存可能な社会を築くための努力が求められています。