SNSの普及は、私たちの生活に欠かせないものとなりましたが、同時に社会に暗い影を落としているのも事実です。特にアメリカでは、大統領選挙を舞台に、SNS上での誹謗中傷や偽情報拡散が深刻な問題となっています。本記事では、SNSがアメリカの政治風景に及ぼす影響について、具体例を交えながら解説します。
SNS炎上:大統領選を揺るがすデマと憎悪の連鎖
2024年の大統領選挙では、トランプ前大統領とハリス副大統領の支持者同士がSNS上で激しく対立しました。互いを罵倒する投稿が拡散され、真偽不明の情報が飛び交う中で、国民の分断は深まるばかりでした。
トランプ前大統領の公聴会出席の様子
例えば、ハリス副大統領候補に対しては「高校教師時代に青少年を性的に虐待した」という告発動画がX(旧Twitter)に投稿され、大きな波紋を呼びました。情報当局が偽情報だと発表した後も、誹謗中傷は止まりませんでした。一方、トランプ氏も「ハイチ系移民が住民のペットを食べた」などのデマを拡散し、批判を浴びました。このように、民主・共和両党の候補者が偽情報の標的となり、SNS炎上に巻き込まれる事態が相次ぎました。
エコーチェンバー現象:閉鎖空間が生む分断の悪循環
SNS運営企業は、ユーザーの滞在時間を延ばし、広告収入を最大化するために、「ユーザーが好む情報を優先表示する仕組み」(アルゴリズム)を採用しています。これは、ユーザーが自分の見たい情報ばかりに囲まれ、異なる意見に触れる機会が減ることを意味します。このような閉鎖的な情報空間は「エコーチェンバー」と呼ばれ、特定の思想が共鳴し合い、他の意見を受け入れなくなる現象を引き起こします。
米プリンストン大学のクロケット准教授らの研究によると、XやFacebookでは、怒りを煽る見出しの投稿は、真偽に関わらず拡散されやすいことが明らかになっています。 情報が正確かどうかよりも、感情的な反応を引き起こすかどうかが重要視されているのです。
アルゴリズムの功罪:ユーザーエンゲージメントと社会問題の狭間で
SNS企業にとって、アルゴリズムはユーザーエンゲージメントを高めるための強力なツールです。しかし、その一方で、偽情報やヘイトスピーチの拡散、エコーチェンバー現象など、深刻な社会問題を引き起こすリスクも孕んでいます。
収益至上主義が生む歪み:閲覧数競争と炎上マーケティング
多くのSNS企業は、閲覧数に応じて投稿者に広告収益を分配する仕組みを導入しています。この仕組みは、閲覧数を稼ぐために、過激な発言や炎上を意図的に仕掛ける投稿者を増やす要因となっています。クロケット准教授は、「いいね!」などの社会的な評価は怒りのメッセージを投稿する動機を強め、金銭的な報酬が加われば、その動機はさらに強まると指摘しています。
また、インスタグラムでは、「容姿が美しい」とされる人々の画像を繰り返し見せられた少女らに、摂食障害などの悪影響が出たケースも報告されています。これは、アルゴリズムがユーザーの心理に及ぼす影響の大きさを示す一例と言えるでしょう。
外国勢力の介入:民主主義を脅かす新たな脅威
SNSは、外国勢力による情報操作の温床にもなっています。ロシア、中国、イランなどは、選挙に関する偽情報を拡散し、米国内の分断を深めようとしているとされています。例えば、ハリス氏に対する偽の告発動画は、ロシアから資金提供を受けた人物によって拡散されたものでした。
SNSの普及は、情報へのアクセスを容易にし、人々のコミュニケーションを豊かにする一方で、偽情報やヘイトスピーチ、社会の分断など、様々な問題を引き起こしています。これらの問題に対処するためには、SNS企業、政府、そしてユーザー一人ひとりの意識改革が不可欠です。