メルケル前ドイツ首相の回顧録「自由 記憶1954-2021」が世界各国で出版され、大きな話題を呼んでいます。その中で、メルケル氏は長年交流のあった世界の指導者たちについて、赤裸々な評価を綴っています。特に注目されるのは、中国の習近平国家主席に対する見解です。本記事では、メルケル氏の回顧録から、習近平氏への冷ややかな評価と、現実的な外交戦略について掘り下げていきます。
メルケル氏の目を通して見る習近平氏
メルケル氏は、習近平氏との初対面を2010年に中国共産党中央党校で果たしました。当時、習氏は国家副主席兼中央党校校長を務めていました。東ドイツで育ったメルケル氏は、中国の政治体制や共産党の役割について鋭い質問を投げかけたと言います。
メルケル氏は回顧録の中で、「集団の利益のために個人の自由を制限できると考える点で、習主席と根本的な見方の違いを感じた」と記しています。彼女は、社会のある集団が全ての人にとって最適な道を決定することはできず、それは自由の欠乏につながると考えており、この点で習氏との価値観の相違を明確に認識したのです。
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さらに、メルケル氏は中国における反体制派への弾圧や人権問題にも言及しています。訪中時に危険を冒してドイツ大使館を訪れた反体制派の人物に会い、個人的に支援することもあったと振り返っています。しかし、中国の組織的な反体制派弾圧を変えることはできなかったという無力感も吐露しています。
現実主義に基づく中国外交
メルケル氏が習近平氏や中国の政治体制に批判的な見解を抱いていたにも関わらず、経済や気候変動といった分野では、中国との現実主義的な外交を展開しました。16年間の首相在任中に12回も訪中し、胡錦濤氏、習近平氏両主席と会談を重ねたほか、テレビ会議も10回行ったという事実が、その現実的な外交姿勢を物語っています。
メルケル氏は、北京だけでなく、上海、南京、西安、成都、瀋陽など地方都市も訪問し、中国との関係構築に尽力しました。退任を控えた2021年10月のテレビ会議では、習主席から「メルケル首相は中国国民の長年の友人だ」と称賛されるなど、一定の成果を収めたと言えるでしょう。
メルケル外交の光と影
メルケル氏の中国外交は、理想主義と現実主義のせめぎ合いの中で展開されました。人権問題への懸念を抱きながらも、経済協力や気候変動対策といった現実的な課題に取り組む必要性を感じていたのです。
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このようなメルケル氏の外交姿勢は、賛否両論を巻き起こしています。人権問題を軽視しているとの批判もありますが、一方で、国際社会における中国の影響力を考慮し、現実的な対応を迫られたという見方もできます。メルケル氏の回顧録は、現代国際政治の複雑さを改めて浮き彫りにする貴重な資料と言えるでしょう。