香港小学校で「人文科」導入へ 中国式愛国教育本格化、現場の教師は戸惑い

香港では、中国政府主導のもと、教育における「中国化」が急速に進んでいます。来年9月から小学校で新たに導入される「人文科」を機に、中国式の愛国教育が本格化しようとしています。現場の教師からは、戸惑いや不安の声が上がっています。

新教科「人文科」で強化される愛国教育

香港政府教育局は、「人文科」の導入目的を「国家の愛国主義教育と連携し、本土と香港の緊密な関係を強調、国民・中華民族の意識を高め、愛国心を育む」こととしています。

必須学習内容には、「国旗掲揚、国歌斉唱のマナー」「中華民族の起源」「国家の安全」「今日の社会に重要な影響を与えた歴史的事件」などが含まれます。歴史的事件としては、アヘン戦争、辛亥革命に加え、「抗日戦争」が特に重視されている点が注目されます。

香港の博物館で「日本軍の香港侵略」について学習する中学生たち香港の博物館で「日本軍の香港侵略」について学習する中学生たち

教育現場の戸惑いと不安

「人文科」導入に向けた準備が進む中、現場の教師からは不安の声が聞かれます。ある小学校教師は、「どのように教えれば良いのか分からず、不安を感じている」と語っています。

例えば、同僚の教師が「清朝を倒した孫文の革命が現在の中華人民共和国につながった」と教えたところ、児童から「中国は台湾なのですか?」という質問が出たそうです。孫文の革命軍の旗「青天白日旗」と台湾の旗「青天白日満地紅旗」が似ていることから、児童は孫文がまず台湾を建国し、その後中国に拡大したと解釈したようです。

このような予期せぬ質問への対応に、教師たちは頭を悩ませています。誤った回答や政治的にセンシティブな内容に触れると、保護者からのクレームや当局への通報につながり、教師資格の剥奪もあり得るからです。

教師のジレンマ

天安門事件や2019年の香港デモといったデリケートな歴史的事件についても、児童から質問される可能性があります。しかし、これらの出来事について、どのように説明すれば良いのか、明確な指針は示されていません。

ある小学校教師は、「自分が学んだ歴史とは異なる歴史を教えなければならないことに、良心の呵責を感じる」と心情を吐露しました。

教師への指導:自己保身と選択式テスト

「人文科」の研修では、講師を務める元教師から「時代は変わった。児童が自由に記述する形式ではなく、選択式テストを採用するように」と指導されているそうです。さらに、「まずは自分を守ること」というアドバイスもされているといいます。

このような状況下で、香港の教育現場は大きな変化の渦中にあります。中国式愛国教育の浸透は、教育の自由や多様性を損なう可能性も懸念されています。

無数の中国国旗が掲げられる中、旧日本軍への抵抗の歴史を強調した博物館には香港の中学生約300人が授業の一環で訪れていた無数の中国国旗が掲げられる中、旧日本軍への抵抗の歴史を強調した博物館には香港の中学生約300人が授業の一環で訪れていた

教育の未来、そして子どもたちの未来がどうなるのか、今後の動向が注目されます。