フランスでライブ配信中に男性が死亡した事件を受け、当局が本格的な捜査に乗り出した。過激な内容で知られる配信中の出来事であり、政府高官が「恐怖であり虐待」と非難する一方、配信メンバーは「台本上の演出で同意があった」と主張するなど、エンターテインメントと倫理の境界線について大きな議論を呼んでいる。
ライブ配信中の悲劇:元軍人の不審死
事件の被害者は元軍人のラファエル・グラベンさん(46)。オーストラリア企業が運営するライブ配信プラットフォーム「KICK」で長時間にわたる配信中に異変が起こった。8月18日、仏南部ニース郊外からの配信中、視聴者がベッド上で動かないグラベンさんに気付き、一緒に寝ていたメンバーに知らせたことで異変が発覚し、配信は打ち切られた。
オーストラリア企業が運営するライブ配信プラットフォーム「KICK」のウェブサイト画面。フランスでの過激配信問題に関連。
その後の司法解剖では、死因は外傷によるものではないことが判明。グラベンさんが心臓に持病を抱えていたことも明らかになったが、当局は配信時の状況を詳細に調べ、事件性の有無を慎重に判断する方針だ。
「金もうけの演出」か「虐待」か?過去の経緯と新たな証言
グラベンさんは除隊後、ゲーム実況配信で人気を博していたが、約3年前から「高収入」を期待し、ペンキをかけられたりエアガンで撃たれたりするような暴力的な内容の配信に移行していた。過去には障害を持つ別の男性も出演し、同様の過激な行為を受けていたという。
昨年暮れには、配信内容に関する報道を受け当局が捜査に着手していた。しかし、グラベンさん自身が被害を否定し、他のメンバーも「金もうけのための演出」と口裏を合わせたため、立件は見送られていた経緯がある。
ところが、グラベンさんの死の数日前、彼は母親に対し「殺人ゲームで身動きが取れない。もう無理だ。抜け出したい」と助けを求めていたとされる。また、軍時代の友人は地元紙パリジャン紙の取材に対し「(金のために)操られていたと思う」と語り、ニースの地元紙も、他のメンバーがグラベンさんに「付け込んだ」との見方を伝えている。これらの証言は、グラベンさんの「同意」が本心ではなかった可能性を示唆しており、事件の背景に新たな疑念を投げかけている。
高まる倫理的懸念:エンターテインメントとモラルの境界線
この事件は、インターネット上の過激なコンテンツにおける倫理的責任と、プラットフォームの役割について改めて問いかけている。フランス政府高官が「エンターテインメントでなく虐待だ」と強く非難したように、表現の自由と人権保護のバランスが重要視されている。特に、脆弱な立場にある人物が経済的、精神的に追い詰められ、過激な配信に参加せざるを得ない状況が生まれていないか、その検証が求められる。今回の事件は、ライブ配信文化が抱える闇と、その社会的影響について深く考える機会となるだろう。
参考文献:
- 時事通信社 (AFPT時事)
- パリジャン紙 (Le Parisien)
- ニース地元紙 (現地報道より)