羽田空港で発生した航空機衝突事故。JAL機と海上保安庁機の衝突というショッキングな出来事でしたが、JAL機の乗客乗員379名全員が無事脱出できたことは、まさに奇跡と言えるでしょう。今回は、運輸安全委員会の経過報告書を基に、JAL機が生還できた要因を詳しく解説します。
衝突の状況と機体の損傷
JAL機は着陸進入中に、海上保安庁機の尾翼に衝突しました。衝突の衝撃は大きく、JAL機の機首部分は海上保安庁機の尾翼を貫通、機内の与圧を維持する隔壁まで損傷していました。
衝突時のJAL機と海上保安庁機
しかし、操縦室や客室への大規模な損壊は免れました。その理由の一つとして、衝突当時、JAL機の前脚はまだ着地しておらず、機首部分が海上保安庁機の尾翼よりも高い位置にあったことが挙げられます。また、JAL機の客室床は海上保安庁機よりも強度が高く、機首部の圧壊を防ぎ、形状を維持できたと報告書は分析しています。
滑走路からの逸脱と停止
衝突の衝撃で前脚は折れましたが、支柱は残ったまま。JAL機は、海上保安庁機に乗り上げる形で滑走を続けました。ブレーキや方向転換が効かない状態でしたが、約1400メートル滑走したのち、滑走路を逸脱、草地に入り込み約300メートル進んだ後、前傾姿勢で停止しました。
残った前脚の支柱が地面に埋まり、機首部が地面に接触することを防いだことが、更なる被害を防ぐ大きな要因となりました。また、電気系統の損傷により逆推進力が働かず、非対称な抗力も生じなかったため、横転や大きな進路変更を免れたと報告書は指摘しています。
乗客乗員全員の迅速な脱出
衝突の衝撃で重篤な負傷者が出なかったこと、そして制御不能の状態ながらも比較的安定した状態で停止できたこと。これらの要因が重なり、乗客乗員全員が約10分という短時間で脱出できたと考えられます。
奇跡の生還劇を支えた複数の要因
運輸安全委員会は、これらの事象について「安全性を確保するための設計基準の想定を大きく超えるものであった可能性がある」と指摘。航空機設計の想定を超えた状況下での、まさに奇跡的な生還劇と言えるでしょう。航空安全の専門家である山田一郎氏(仮名)は、「複数の幸運が重なった結果と言えるでしょう。今後の事故調査で、より詳細な分析が待たれます」と語っています。
今後の課題と更なる安全対策に向けて
報告書では、炭素繊維強化プラスチックで構成された機体の焼失部分から発生した粉じんに対し、消火活動にあたった消防隊員の粉じん防護が不十分だった点も指摘しています。「諸条件が違っていれば、人的被害が拡大していた可能性がある」として、被害軽減の観点からも分析を進める方針です。今回の事故を教訓に、更なる安全対策の強化が期待されます。