犯罪被害者とその遺族にとって、加害者からの真摯な謝罪と反省は、深い悲しみを乗り越えるための重要な一歩となる。2023年12月に導入された「心情等伝達制度」は、まさにその橋渡し役を担うことを期待されて誕生した。しかし、制度開始から1年、その運用実態には光と影が混在している。本記事では、実際に制度を利用した遺族の事例を通して、その現状と課題に迫る。
制度開始1年、届かぬ謝罪と残る傷
「心情等伝達制度」は、受刑中の加害者に、被害者や遺族の心情を伝えることを目的とした制度だ。法務省の発表によると、開始1年で136件の申し込みがあり、113件で加害者への伝達まで完了している。しかし、すべてのケースで加害者の反省や謝罪につながっているわけではない。
alt="心情等伝達制度の結果通知書を持つ遺族の手"
4年前に21歳の娘を少年に殺害された福岡市在住の女性は、この制度を利用し、加害者からの返答を受け取った。しかし、その内容は、娘を侮辱する言葉の数々で、母親の心を深く傷つけるものだった。「事件から4年経ち、少しでも反省しているのではないかと期待していたのに…」と、女性は声を震わせた。
加害者の返答には、「人はあっけなく死ぬんですね」「猿の顔、馬鹿ですね」「ごめんですね」といった、被害者とその遺族を嘲笑うような言葉が並んでいた。これらは、制度の目的とは真逆の結果を生み出した痛ましい例と言えるだろう。
制度の課題と更なる被害者支援の必要性
犯罪被害者支援の専門家である、東京未来大学教授（仮名）の山田一郎氏は、「加害者の反省を促すためには、単に被害者の心情を伝えるだけでなく、加害者自身の内面と向き合うための心理的サポートが不可欠」と指摘する。
alt="加害者と被害者遺族の心情伝達イメージ"
「心情等伝達制度」は、被害者や遺族にとって、加害者と向き合うための重要な機会を提供する一方で、加害者の真摯な反省を引き出すためには、更なる改善が必要であることが浮き彫りになっている。
具体的には、加害者への心理教育の充実、伝達内容に対する適切なフィードバック、そして、被害者・遺族への継続的な心理的サポートなどが挙げられる。
未来への希望：真の更生と被害者支援を目指して
「心情等伝達制度」は、まだ始まったばかりの制度だ。今後、多くの事例を積み重ね、課題を克服していくことで、真に被害者と加害者の双方にとって有益な制度へと発展していくことが期待される。 犯罪被害者とその遺族の心の傷を癒やし、加害者の真の更生を促すためには、社会全体で被害者支援に取り組む必要がある。この制度が、そのための重要な一歩となることを願ってやまない。
