福島原発事故避難者への住宅提供打ち切り問題:大阪市提訴の背景と課題

大阪市が福島原発事故避難者に対して行った住宅提供打ち切りと、それに伴う明け渡し訴訟について、その背景にある複雑な問題と課題を深く掘り下げて解説します。避難者の置かれた厳しい状況、福祉行政の対応、そして今後の展望について、共に考えていきましょう。

福島原発事故避難者の住宅問題:支援打ち切りの波紋

2011年の東日本大震災に伴う福島原発事故は、多くの人々の生活を一変させました。関東地方から大阪市に避難した新鍋さゆりさん(仮名・50代)もその一人です。避難中に末期がんと重度障害という困難に見舞われた新鍋さんは、2017年3月末に公営住宅の無償提供が打ち切られ、退去を求められました。同時に、生活保護の打ち切りも通告されるという、二重の苦境に立たされたのです。

alt 福島原発事故避難者の住宅問題を考えるシンポジウムの様子。多くの人がオンライン、オフラインで参加し、熱心に耳を傾けている。alt 福島原発事故避難者の住宅問題を考えるシンポジウムの様子。多くの人がオンライン、オフラインで参加し、熱心に耳を傾けている。

新鍋さんのケースは、原発事故避難者の住宅支援をめぐる制度の不備を浮き彫りにしています。災害救助法に基づく無償提供は長期避難を想定しておらず、支援打ち切りによって多くの避難者が精神的・経済的な苦境に追い込まれています。新鍋さんの場合は、住宅支援の打ち切りと同時に生活保護の打ち切りも通告され、事態はさらに深刻化しました。これまで住居問題に関与してこなかった福祉事務所が、突然退去期限日に生活保護打ち切りを通告したというのです。

福祉行政の対応:専門家の視点から

反貧困ネットワーク事務局長の瀬戸大作氏は、新鍋さんのケースについて「大阪は大丈夫か?と思った」と述べています。困窮者支援の最前線で活動する瀬戸氏にとっても、このケースは異例であり、福祉行政の対応に疑問を呈しています。

関西大学法学部教授の水野吉章氏は、新鍋さんの居住権は法的に保護されるべきだと指摘します。水野氏によると、住宅支援の打ち切りは公営住宅の建て替え時の退去と類似しており、行政の都合で居住者が追い詰められる構図が共通しているといいます。公営住宅建て替えの場合、自治体には居住者のために代替住居を確保する義務がありますが、原発事故避難者に対しても同様の配慮が求められるべきだと水野氏は主張します。大阪市は必要な支援を行わず、明け渡し訴訟と損害賠償請求という過剰な対応を取っているとし、この判決が全国の同様の訴訟に影響を与える可能性を懸念しています。

今後の展望:避難者支援のあり方

新鍋さんのケースは、原発事故避難者への住宅支援と福祉行政の連携不足という深刻な問題を提起しています。長期避難を想定した支援制度の構築、避難者の生活再建に向けたきめ細やかなサポート、そして行政と支援団体との連携強化が不可欠です。

この問題は、私たち一人ひとりが真剣に考えるべき社会課題です。原発事故避難者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、共に考えていきましょう。