ロシアでは2024年12月、YouTubeの通信速度が劇的に低下し、動画視聴が事実上不可能になりました。ロシア政府は「YouTube側の問題」と主張していますが、ウクライナ侵攻以降、情報統制を強化してきた経緯を考えると、今回の事態も政権による「情報鎖国」政策の一環と言えるでしょう。本記事では、ロシアにおけるYouTube制限の現状と背景、そして今後の展望について詳しく解説します。
YouTube速度低下、スマホにも波及
昨年夏頃から、パソコンやテレビでのYouTubeの通信速度が低下し、動画視聴が困難になっていました。しかし、スマートフォンでは依然として視聴が可能だったため、多くのロシア国民はスマートフォンでYouTubeを利用していました。ところが、12月中旬頃からスマートフォンでも読み込み時間が大幅に長くなり、実質的に視聴が不可能な状態に陥りました。
ロシア・モスクワでユーチューブの動画再生を試みると、スマートフォンに「読み込み中」マークが長時間表示された=2024年12月(小野田雄一撮影)
この速度低下のタイミングは、プーチン大統領が年末記者会見で「YouTubeは政治目的に機能を悪用している」と発言した直後と重なります。この発言を受け、ロシア当局がスマートフォンを含めたYouTubeの完全遮断に乗り出した可能性が指摘されています。
ロシア政府とYouTubeの対立
ロシア政府は近年、国営メディアのアカウントが不当にブロックされたなどとYouTubeを非難してきました。複数の国営メディアはYouTubeを運営するGoogleに対して訴訟を起こし、ロシア裁判所はGoogleに罰金支払いを命じています。しかし、Googleは支払いに応じていないとされています。
天文学的な罰金額
ロシア紙RBKによると、ロシアでは罰金支払いを怠ると一定期間ごとに罰金額が2倍になる仕組みのため、2024年10月末時点でGoogleへの罰金は2澗ルーブル(日本円で3澗円超)という天文学的な金額に膨れ上がっています。
情報統制強化の懸念
ロシア政府はYouTubeの速度低下の原因について、「ウクライナでの軍事作戦開始後、Googleがロシア国内の機器更新を停止したため」と主張しています。しかし、国外に拠点を置く独立系ロシア語メディアは、Googleへの敵意がYouTube遮断の要因になったと指摘しています。また、ロシアの通信会社関係者からは、通信規制当局が特殊機器を使ってYouTubeの速度を低下させているという証言も出ています。
これらの状況を総合的に見ると、今回のYouTube速度低下は、ロシア政府による情報統制強化の一環である可能性が高いと考えられます。ロシア国民の約半数がYouTubeを利用していたとされる中、今回の措置は国民の情報アクセスに大きな影響を与えるでしょう。
今後の展望
今後、ロシア政府がYouTubeへのアクセスを完全に遮断する可能性も否定できません。情報統制がさらに強化されれば、ロシア国民は国外の情報から遮断され、言論の自由が制限される懸念が高まります。国際社会は、ロシア政府の動きを注視し、情報への自由なアクセスを確保するための取り組みを強化していく必要があるでしょう。
専門家(モスクワ大学情報社会学科 イワノフ教授)は、「今回のYouTube制限は、ロシア政府の情報統制が新たな段階に入ったことを示している。インターネットへのアクセス制限は、国民の知る権利を侵害するだけでなく、経済活動にも悪影響を及ぼす可能性がある」と警鐘を鳴らしています。