世界の難民問題:その現状と日本の役割

難民問題。ニュースで目にすることも多い言葉ですが、その実態をどれほど理解しているでしょうか?紛争や迫害から逃れ、故郷を離れざるを得なかった人々。彼らの現状、そして日本との関わりについて、国際基督教大学教養学部政治学・国際関係学デパートメント准教授の橋本直子氏の著書『なぜ難民を受け入れるのか 人道と国益の交差点』(岩波書店)を参考に、分かりやすく解説します。

難民とは? 混乱を招く定義の曖昧さ

「難民」とは一体誰のことでしょうか?実は、世界共通の明確な定義はありません。難民条約では、「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見」といった5つの理由による迫害の恐れから、祖国を逃れた人々と定義されています(重大な犯罪者は除外)。

ホテルに入るウクライナからの避難民ホテルに入るウクライナからの避難民

しかし、自然災害による避難民も難民とみなす国もあるなど、地域によって解釈が異なるのが現状です。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)でさえも正確な数を把握しきれておらず、2023年末時点で「難民っぽい人」も含めた数は約3160万人とされています。

EUの取り組みと日本の現状

EUは難民条約の定義に加え、旧ユーゴスラビア紛争の経験から「紛争避難民」という枠組みも設けています。これは、紛争下における無差別暴力から逃れた人々を保護するためのものです。2022年以降、ウクライナから避難した人々もこの枠組みで支援を受けています。

トラックに乗せられて国境を越える難民トラックに乗せられて国境を越える難民

日本も2023年6月の入管法改正で「補完的保護対象者」という地位を新設し、紛争地からの避難民を受け入れる体制を整え始めました。ウクライナ避難民も徐々にこの地位に移行していく見込みです。

難民問題と向き合うために

難民問題は、複雑で多様な側面を持つ世界的な課題です。一人ひとりが現状を正しく理解し、国際社会との連携を強化することで、より効果的な支援が可能になるはずです。橋本准教授は、「難民問題は人道的な観点だけでなく、国際社会の安定、ひいては日本の国益にも関わる重要な問題」と指摘しています。私たちも他人事と思わず、難民問題について学び、考え続けることが大切です。