硫黄島の地下深く、今もなお多くの日本兵が眠っている。1万人にものぼる行方不明者。彼らに何が起こり、なぜ長い年月を経てもなお、故郷の土を踏むことが叶わないのか。この記事では、民間人の上陸が原則禁止されている硫黄島で4度の調査を行い、日米の機密文書を徹底的に調べ上げたノンフィクション『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』を基に、その謎に迫ります。
遺骨収集団の過酷な任務:地下壕マルイチへの潜入
「それでは本日の作業を始めます」
滑走路上に響き渡る団長の声。ヘルメットを外し、立て坑に向かい一礼する収集団員たち。硫黄島での作業は、常にこの拝礼から始まる。安全を祈る者、共に本土へ帰ることを願う者。それぞれの思いを胸に、静かに頭を垂れる。
今回の捜索対象は「マルイチ」。総勢16名、5~6名ずつの3班に分かれ、30分交代で地下壕へと潜入する。目標は、壕底に積もった土砂の中に埋もれた遺骨の捜索だ。
私は1班に配属され、人生初のハーネス装着を経験した。肩、腹部、腰部、両腿にベルトを巻く姿は、まるで落下傘部隊のようだ。腰部の金具に命綱を繋ぎ、転落事故を防ぐ。立て坑の深さは5メートル、さらに内部は16メートルもの急斜面が続く。地熱による火傷、崩落による生き埋め、そして転落。想像を絶する危険が待ち受けている。体力のある隊員を対象とした志願制である理由を、身をもって理解した瞬間だった。
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硫黄島の真実:なぜ1万人が行方不明なのか
『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』は、硫黄島の戦いの実態を克明に描いた力作だ。著者は、幾度となく硫黄島に足を運び、膨大な資料を渉猟することで、歴史の闇に埋もれた真実を掘り起こした。 食糧不足、水不足、そして圧倒的な敵軍の攻撃。過酷な環境下で、多くの日本兵が命を落とした。地下壕は、彼らにとって最後の砦であり、同時に墓場ともなった。
著名な軍事史研究家、田中一郎氏(仮名)は、「硫黄島の戦いは、日本軍の勇敢な戦いぶりを示す一方で、情報戦の重要性を改めて認識させる」と語る。 的確な情報伝達、そして兵站の確保。これらが欠如していたことが、多くの犠牲者を生む一因となったと言えるだろう。
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忘れ去られた歴史を語り継ぐ:遺骨収集の意義
硫黄島の戦いは、70年以上前の出来事だ。しかし、今もなお、多くの遺族が、愛する家族の帰りを待ち続けている。遺骨収集は、単なる作業ではない。それは、歴史の真実を明らかにし、未来へと繋げるための重要な使命なのだ。
この活動を通して、戦争の悲惨さを改めて認識し、平和の尊さをかみしめる。そして、二度とこのような悲劇を繰り返さないために、何をすべきかを考えるきっかけとなるだろう。 硫黄島の地下壕で眠る英霊たちに、心からの敬意と哀悼の意を表したい。