オリンピックは、かつて質素なスポーツの祭典でしたが、巨額の利益を生み出す一大イベントへと変貌を遂げました。その変化の立役者とも言えるのが電通であり、その電通で長年スポーツ局に君臨したのが高橋治之氏です。慶應幼稚舎から慶應義塾大学に進み、当時誰もが羨む超一流企業である電通にコネで入社。まさにエリート街道をひた走ってきた彼が、なぜ逮捕されるに至ったのでしょうか? 本記事では、ジャーナリスト西﨑伸彦氏の著書『バブル兄弟 “五輪を喰った兄”高橋治之と“長銀を潰した弟”高橋治則』を参考に、高橋治之氏の栄光と転落の軌跡を辿ります。
電通のカリスマ、高橋治之氏とは?
高橋治之氏は、電通においてスポーツマーケティングの第一人者として名を馳せていました。その手腕は、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー集めにおいても遺憾なく発揮され、国内スポンサー68社から3761億円という巨額の資金を集めることに成功しました。
高橋治之氏イメージ画像
約2億円の収賄容疑で逮捕
2023年12月14日、東京地裁。高橋治之氏は受託収賄罪で起訴され、初公判が開かれました。彼は、組織委員会理事としての職務でスポンサー企業の選定などに便宜を図った見返りに、AOKIホールディングスやKADOKAWA、ADKホールディングスなどから総額約2億円の賄賂を受け取っていたとされています。
検察側は、高橋氏が組織委員会理事という立場を利用し、自ら代表を務めるコンサル会社「コモンズ」などを通じて賄賂を受け取っていたと主張。一方、高橋氏は無罪を主張し、受け取った金銭は民間のコンサルティング業務に対する報酬であり、理事としての職務に対する対価ではないと反論しました。
スポンサー選定をめぐる疑惑
東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定は、上位から「ゴールドパートナー」「オフィシャルパートナー」「オフィシャルサポーター」の3段階に分類されていました。マーケティング専任代理店に指名された電通は、ADKや大広などの販売協力代理店の協力を得て契約獲得に奔走しました。
高橋氏は、古巣である電通で絶大な影響力を持っていました。彼は電通から組織委員会に出向していたマーケティング局長らを呼び付け、自ら依頼を受けた企業に便宜を図るよう迫っていたとされています。これらの案件は“高橋理事案件”と呼ばれ、特恵事項として扱われていたとのことです。
追加協賛金をめぐる圧力
新型コロナウイルスの影響で大会が1年延期された際、各スポンサー企業には原則1億円の追加協賛金が求められました。しかし、高橋氏は自身が関与した企業の追加協賛金を半額にするよう迫ったとされています。「5000万円にしてやれ。5000万円って言っちゃったよ。俺の顔を立ててくれよ」といった生々しいやり取りも法廷で明らかになりました。
事件の真相は?
高橋治之氏は、本当に賄賂を受け取っていたのでしょうか?それとも、彼は濡れ衣を着せられた被害者なのでしょうか?今後の裁判の行方に注目が集まります。
高橋治之氏の人生、そして東京オリンピックの闇
高橋治之氏の逮捕は、東京オリンピックの輝かしい舞台裏に隠された闇を浮き彫りにしました。スポーツの祭典の裏側で繰り広げられた不正行為は、多くの人々に衝撃を与えました。今後の裁判の行方を見守りながら、私たちはスポーツと社会のあり方について改めて考え直す必要があるのかもしれません。