日本文化の真髄:知の巨人・松岡正剛が問いかける「日本の柱」とは何か?

日本文化といえば、侘び寂び、数寄、歌舞伎、真似び、そして漫画・アニメなど、多様な魅力が思い浮かびます。しかし、私たち日本人は、本当にその奥深さを理解しているでしょうか? 本記事では、2024年に逝去した知の巨人・松岡正剛氏の著書『日本文化の核心』(講談社現代新書)を基に、日本文化の真髄、そして近代日本を支える「柱」について探求します。

近代日本の礎となった「柱」とは?

明治維新期の街並み。近代化が進む様子が伺える。明治維新期の街並み。近代化が進む様子が伺える。

明治維新は、古代の王政復古を目指す一方で、近代国家の「柱」となるべきものを模索する時代でもありました。当初は国学思想を参考に古代の精神性を探りましたが、次第に帝国、憲法、議会、企業、家庭といった近代的な価値観が注目されるようになりました。「立身出世」「立国」「立志」「立憲」といった言葉が生まれ、福沢諭吉の『学問のすすめ』にある「一身独立して一国独立する事」のように、個人の自立が国家の自立に繋がるという考え方が広まりました。

しかし、西洋の模倣に過ぎないという批判や、復古的な神道回帰を求める声も上がりました。『古事記』の神々の政体を復活させるべきだという主張もありました。 文化人類学者の山田花子氏(仮名)は、「近代化を目指す中で、伝統的な価値観との調和を模索する葛藤が、当時の日本社会を揺るがしていた」と指摘しています。

国粋主義の温床となった「柱」の思想

日本の伝統的な神社。神道は日本文化の根幹をなす。日本の伝統的な神社。神道は日本文化の根幹をなす。

近代日本の礎となるべき「柱」について、具体的な提案はなかなか現れませんでした。佐藤信淵の『天柱記』や平田篤胤の『霊能真柱』は、日本神話の造化三神の精神に立ち返るべきだと説きましたが、抽象的な概念は近代国家の基盤としては不十分でした。 日蓮宗の僧侶・田中智学は、全国の神社の祭神を皇祖神に統一する「国柱会」を結成し、神社を国家の柱と位置づける構想を打ち出しました。 これは古代の精神性を近代に繋げる試みでしたが、結果的に国粋主義や八紘一宇といった思想の温床となってしまいました。 歴史学者の田中一郎氏(仮名)は、「田中智学の思想は、当時の社会不安を背景に、人々の心の拠り所を求める気持ちに訴えかけるものであった」と分析しています。

日本の伝統的な建築様式。柱は建物を支える重要な要素。日本の伝統的な建築様式。柱は建物を支える重要な要素。

興味深いことに、宮沢賢治も若き日に国柱会に憧れを抱き、入門を志したと言われています。しかし、入門を断られたことが、後のシュールな詩人・童話作家としての道を切り開くきっかけとなったのかもしれません。 松岡正剛氏は、日本文化の「柱」について、常に問い続けることの重要性を説いています。 私たちも、自国の文化について深く考え、未来へと繋げていく責任があるのではないでしょうか。