阪神淡路大震災30年:神戸大学震災文庫が伝える「記憶の継承」と未来への教訓

神戸大学付属図書館に保管されている「震災文庫」は、阪神淡路大震災の記憶を後世に伝える貴重なアーカイブです。書籍や公文書だけでなく、避難所での生活の様子や被災者の生の声を記録した一次資料など、約6万点もの資料が所蔵されています。この記事では、震災文庫の設立経緯や活動、そして未来への教訓について詳しく解説します。

震災文庫:誕生の背景と資料収集へのこだわり

震災直後、図書館には地震関連資料を求める声が多数寄せられました。当時の司書、稲葉洋子さん(73)は、図書館の役割を再認識し、震災資料の網羅的な収集を決意。1995年4月から書籍や雑誌の収集を始めましたが、すぐに震災の全体像を把握するには一次資料が不可欠だと気づき、収集対象を「震災後に人々が生産したもの全て」へと拡大しました。

神戸大学付属図書館の震災文庫で資料を手に取る稲葉洋子さん神戸大学付属図書館の震災文庫で資料を手に取る稲葉洋子さん

特に重視したのは、復興計画の策定過程などを記録した一次資料です。報告書だけでは被災者の意見が反映されているか判断できないため、住民団体が神戸市に提出した陳情書や、それに対する市の回答文書なども保管。被災者の生の声を後世に伝えることに尽力しました。例えば、1995年2月末に提出された陳情書には、他府県への避難を余儀なくされた住民たちが、住民不在のままの街づくりへの懸念を訴えています。

震災文庫の活動:国内外への情報提供

集められた資料は、国内外問わず被災地支援にも役立てられました。1999年のトルコ大地震では、現地の大学関係者から仮設住宅に関する資料提供の要請があり、また、同年の台湾大地震では、日本の研究者から復旧活動に関する資料の緊急要請がありました。震災文庫は、貴重な情報を提供することで、国際的な災害支援にも貢献しています。

東日本大震災への影響:東北大学付属図書館の取り組み

震災文庫の理念は、他の被災地にも影響を与えています。2011年の東日本大震災発生後、東北大学付属図書館は震災文庫の取り組みを参考に、避難所で配布されたチラシや学校便り、個人の手記など約9000点を収集。震災の記憶と教訓を未来へ繋ぐ活動を行っています。

震災文庫が伝える未来への教訓

震災文庫は、単なる資料の保管場所ではなく、災害の記憶を風化させないための重要な拠点です。被災者の体験や教訓を学ぶことで、防災意識の向上や今後の災害対策に役立てることができます。 震災から30年が経過し、風化が懸念される中、震災文庫は未来への備えとして、その役割をますます重要性を増しています。 災害時の情報収集や記録の重要性、そして被災者の声を尊重した復興計画の必要性を改めて認識させられます。

神戸大学震災文庫は、過去の災害を未来への教訓へと繋げる、かけがえのない存在です。