ロシアによるウクライナ侵攻から今年2月で丸3年となる。ウクライナには欧米からさまざまな強力兵器が供与され、西側陣営で最も優れた戦車の一つとされるドイツ軍の「レオパルト2」もその一角をなす。
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そんな戦車大国ドイツが第二次世界大戦期間に投入した装甲戦闘車両の全車種を集めた写真集「WW2ドイツ装甲戦闘車両総集」(広田厚司著、潮書房光人新社)がいま関係者の間で注目されている。未発表も含め稀少な写真600枚がぎっしり詰め込まれ、マイナーな車種まで網羅しているが、特に興味を引くのは地味に活動した牽引車両の存在だ。今でも世界中で愛されるドイツ軍の名機「ケッテンクラート」がそれ。オートバイ企業のNSU社が開発したそんなユニークな車両について一部抜粋、再構成してお届けする。
実用試験は好評、全戦線で重宝された存在
ケッテンクラートは1939年に兵器局が空軍降下部隊用の履帯付小型汎用牽引車としてNSU社に開発を要請。同社はオーストリア・アストロ・ダイムラー社の地形に応じて履帯と車輪を使い分けて走行するADMKモーターカラッテを参考に、オートバイと履帯付小型ボディを合体させた0・5トン級の汎用軽牽引車を開発した。
懸架装置は8本のトーションバーで複列転輪を支え、前半分は鋼板皿型車輪で強化した一輪オートバイ、後方半分は装軌車で上部は乗員と荷物室だ。実用試験は好評を博し、1940~44年までに8345両が生産されて全戦線で重宝された。
過酷な条件下でも履帯(ベルト)の踏破力で活躍
実戦は1942年6月で、多段冷却装置を搭載して北アフリカ戦線へ送られると同時にロシア戦線にも配備された。狭道、山道、森林、沼沢地、泥濘地、雪道、砂漠で小型火砲を牽引。その他、兵員、物資、弾薬輸送、そして指揮官や司令部員の迅速な移動や近距離偵察任務でも重用され、空軍の軍用機の牽引もこなした。オートバイ部品の流用などによる若干の耐久性面での欠陥もあったが、過酷な条件下でも履帯の踏破力で活躍し、将兵の信頼も高かった。
重心位置がやや高く、坂道操縦には要注意
登攀力はカタログ値24度だが45度でも可能で、渡渉力は水深44センチと機動力も優れていた。外観は鈍重だが実際は敏捷で操縦性にも優れ、最高時速は路上70キロが可能だった。
ただ重心位置が比較的高く、車両幅が狭いため、斜面頂上から下る場合の操縦に注意を要した。ドライバーはオートバイと同じく中央のサドル席に座るが、非シンクロ変速器は微妙な操縦感覚が必要だった。
潮書房光人新社