相続税を減らす「新しい方法」
相続税を減らすために、2024年から有効な手段が新しく増えたことはあまり知られていない。それが「相続時精算課税制度」における基礎控除の創設だ。税理士の宝田健太郎氏が解説する。
「110万円まで非課税で贈与できる暦年贈与が相続税対策としてよく知られています。暦年贈与には持ち戻しがあり、従来は被相続人が亡くなる前の3年間に贈与した分が相続税の課税対象となっていましたが、これが’24年1月から7年間に延長されました。この変更で、たとえば昨年に親が子に110万円を贈与したとしても、7年後の’31年までに親が亡くなれば、それは相続財産として持ち戻され、相続税の課税対象となるのです。
これは明らかに増税となるため、国民から不満が出るおそれがある。推測ではありますが、こうした不満を抑えるために、相続時精算課税制度が改正されたのかもしれません。相続時精算課税制度は『親と子とのセット』で適用申請(暦年贈与との選択)するので、父からは精算課税制度で、母からは従来の暦年贈与でと合計220万円まで非課税で贈与を受けられます」
ポイントは、相続時精算課税制度と暦年贈与を、贈与する側とされる側の組み合わせごとに選択できる点だ。いささかわかりづらいので、実例で説明しよう(左図参照)。
相続時精算課税制度は、60歳以上の親や祖父母が18歳以上の子や孫へ贈与する場合に適用される。両親から子に贈与する場合は、一方の親が精算課税制度を選択して、基礎控除の110万円まで非課税で毎年贈与することが可能になった。
ちなみにこの制度には、暦年贈与のような持ち戻しがなく、亡くなる直前まで非課税で贈与できる。利用するには、税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出することが必要となるうえ、一度、相続時精算課税制度を選択すると、暦年贈与に戻れないことにも留意しておきたい。
ヤブヘビになるリスクもある
一方の親は暦年贈与制度を使って、子に年110万円を非課税で贈与することが許されている。つまり、この制度を活用することで、合計で最大220万円を毎年、非課税で親(祖父母)から子(孫)へ贈与することが可能なのだ。ただし、相続時精算課税制度を使うことには、一定のデメリットもある。富裕層の財産管理などを行うアレース・ファミリーオフィス代表の江幡吉昭氏が注意点を指摘する。
「そもそも、相続時精算課税制度を選択するだけで、相続時にヤブヘビになるリスクが格段に高まると考えたほうがいいでしょう。この制度を活用することは、相続税が発生することを心配して、様々な手を打っています、とカミングアウトしているようなものだからです。
毎年、確定申告をしている人は、税務署が資産状況を把握しています。自営業者、医者や弁護士、大企業の役員などがこれにあたります。税務署にしてみれば、彼らは自分たちが管理している生け簀の中にいるわけです。逆に言えば、税務署はこれら以外の人の資産状況を詳しく把握しているわけではない。にもかかわらず、相続時精算課税制度を選択することは、相続税を節約したいほどの資産があると白状するようなもの。わざわざ税務署の生け簀に自ら入りに行くようなものです」
とはいえ、毎年220万円を非課税で子や孫に贈与できるのは大きい。税務署に痛くもない腹を探られても構わない人は、一考の余地があるだろう。
相続税を減らす方法は、他にもある。多くの人にとって有効なのは、暦年贈与に加えて、小規模宅地等の特例と生命保険の非課税枠活用だ。
「相続財産が自宅のみのような一般の人にとって、この3つが相続税対策の王道です。小規模宅地等の特例とは、亡くなった人(被相続人)が自宅として使っていた土地を、配偶者か、被相続人と同居していた親族が相続した場合、土地の評価額を8割引きにできる特例で、この特例が使えるかどうかで、支払う相続税が大きく変わってきます。いくつかの条件を満たす必要がありますが、それまで同居していなかった子供が相続する際にも適用されるケースがあります。
この場合、自宅を相続する子供家族が、親が亡くなる前の3年間にマイホームを所有していない場合に限られます。中には同居していないのに、住民票だけ実家に移して特例の適用を受けようとする人もいますが、これは通用しません。税務署は光熱費の使用状況などもチェックするため、嘘はバレると考えたほうがいい」(江幡氏)