貸金庫から大金を盗んだ元行員が和久井映見に似ていたかどうかはさておいて、銀行首脳に下された処分に強烈な違和感を抱いた預金者は少なくあるまい。
1月16日、三菱UFJ銀行が、貸金庫からの盗難事件を受けて、会長、頭取ら5人の社内処分を発表した。それによると、半沢淳一頭取(60)ら3人が30%の報酬減額を3カ月。また、常務執行役員2人が20%の減額を3カ月となった。逮捕された今村由香理容疑者(46)を懲戒解雇にしたのは当然としても、14億円もの損害を出した事件で、役員がこの程度の報酬減額というのは、何を基準にしたのだろうか。同行に聞くと、
「われわれの銀行の中での過去の事例、あるいは他社の事例なども参考にしながら報酬委員会、銀行取締役会などで審議され決定されたものでございます」(広報部)
半沢頭取は“2回目”の報酬カット
それなら、どんな不祥事が過去にあったのか。
例えば、同和団体の元理事長に不正融資を行っていた「飛鳥会事件」では、2007年に会長、副会長、頭取ら12人に対し報酬の10〜50%が3〜6カ月カットされた。闇に消えた金額は80億円といわれている。また、同年7月にはマネロン対策の不備などで会長、頭取など3人が30%を2カ月カット。最近では昨年7月に銀行とグループ会社が顧客に無断で未公開情報を共有していたとして、親会社のMUFGなどの首脳6人が報酬の30%を2〜5カ月カットとなった。半沢頭取はMUFGの役員でもあるため、これで2回目の報酬カットである。
「実効的なペナルティーになるとは思えない」
だが、不祥事ばかりで貧乏になってしまうのかというと、そうでもない。半沢氏の24年度の総報酬額は3億3000万円。そのうち減額対象となるのは役員賞与などを除く1億1400万円。ざっくり計算して今回は855万円のカットである。
同行では他社の事例も参考にしたとしているが、ライバルのM銀行員で『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』の著者・目黒冬弥氏には、どう映ったか。
「年収3億円以上の報酬をもらっている頭取が、この程度のカットでは実効的なペナルティーになるとは思えませんし、厳粛に受け止めているとは三菱UFJの行員でさえ感じていないでしょう。同行は具体的なことを公表していませんが、再発を防ぎたいならいちばん近くで監督した支店長の処分内容をはっきりさせておくことも大事です。おそらく同業の銀行員はそこにいちばん関心がありますから」
2度の報酬カットにもかかわらず、半沢頭取はグループ(MUFG)次期社長の最有力候補だという。
「週刊新潮」2025年1月30日号 掲載
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