キャッシュレス化の負担に悩むのは大手チェーン店も同じだ。1都3県に100店舗以上ある「名代富士そば」で、交通系ICカード、現金に加えて、最初にQRコード対応の券売機が登場したのは22年。しかし、それから2年以上がたった今も、導入済みの店舗は約3割にとどまる。
【関連画像】機能は増えるがコストは大幅に増加。「名代富士そば」の新旧券売機の比較
富士そばを展開するダイタンホールディングス(東京・渋谷)は、傘下に店舗の運営会社が6社あり、メニュー展開や運営方針などは各社に任されている。最初にキャッシュレス化に踏み切ったのは、ダイタンキッチン(東京・渋谷)の店舗だが、そこからなかなか広がっていかない。もう1つの運営会社であるダイタンディッシュ(東京・渋谷)のエリアマネージャー、石田達也氏も「主にコスト負担の大きさが問題になっている」と話す。
同社が展開する11店舗のうち5店舗はキャッシュレスに対応済み。主に駅に近い店舗が対象だ。牛丼やカレーなどの大手チェーンと競合するため、支払い方法の制約をできるだけなくして客離れを防ぐ狙いがある。
しかし、それ以上の展開には、コスト負担が壁になる。現金と交通系ICカードが使える券売機の価格は1台200万~220万円。ここにQRコード決済機能を追加するとさらに60万円がかかる。
キャッシュレス化に対応するには、券売機の入れ替えのほか、モニターの新設なども必要になる。それらのコストを考えると、従来店舗と比べて約2倍の初期投資が必要になるという。
キャッシュレス化で客単価が40~50円上がったり、現金の詰まりによるトラブルが減ったりしてメリットも感じたものの、投資対効果を考え合わせれば、まだ全面展開には踏み切れない。
富士そばの客単価は700円前後で、大手飲食チェーン店の中では比較的低い。ここからキャッシュレス決済の手数料を支払うのは痛手だ。ダイタンディッシュは、今後の新券売機の導入をどうするか検討中だという。
他の運営会社も同様で、「交通系ICカードと現金だけで問題ない」「手数料がもったいない」といった声が上がる。結果として「富士そばチェーン全体の方針も決まっていない」と石田氏は言う。