【モスクワ=小野田雄一】ロシア政府は3日までに、国外からのサイバー攻撃など“脅威”が起きた際に国内のインターネットを国外から切り離すことを可能にする「ネット主権法」を施行した。政府は通信経路を一元管理し、必要に応じて特定のサイトへの接続を遮断したり、国外からの情報流入を防いだりすることが可能になる。露国内では「定義が曖昧な脅威の名の下に政権に都合の悪い情報を遮断することが真の狙いだ」との危惧が強まっている。
同法は国外からのサイバー攻撃や情報干渉に備え、国外との接続を切断しても稼働できる露独自のネットを構築するとの名目で成立し、今月1日に施行された。通信を一元的に監視・管理するセンターを設立するほか、通信監督当局の権限を強化し、通常時は通信事業者が行う不適切な情報へのアクセス遮断などを、必要に応じて当局側の判断で行えるようにする。
露メディアによると、法の施行に先駆けて通信監督当局や露連邦保安局(FSB)が中部ウラル地方で実証実験を行ったが、結果は公表されていない。運用に必要な専用設備も通信事業者に行き渡っておらず、遮断が可能になるのは約1年後の見通しという。運用に伴う通信速度の低下や想定外のトラブルが起きる懸念も指摘されている。
ネットの防衛を掲げる同法だが、露国内の危惧は根強い。ロシアではネットの発達により、政権の統制下にあり国民の主要な情報源だったテレビの影響力が低下。露政府はネット上の反政府機運の高まりや他国のロシア批判報道などに神経をとがらせ、ネット規制を強化しているためだ。
露政府は今年、国家や政府への「不敬な投稿」や「フェイクニュース」に罰則を科す法律を施行。10月には通信監督当局が中国の厳格なネット統制システムを研究する方針を表明し、露ネット利用者には「自由なネットが奪われる」と危機感が高まっている。
1日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータは「ネット主権法は(クリミア併合に端を発した)2014年以降のロシアの孤立主義の論理的帰結だ。ロシアのネットは以前のようには存在しなくなる」と懸念した。