現代社会は、人種差別、経済格差、ジェンダー問題など、様々なモラルのジレンマに直面しています。世界中で「正しさ」とは何かが問われる中で、私たちは遠い国の問題には敏感でありながら、身近な問題には時に冷淡です。では、真の「善悪」とは何か？ オランダ・ユトレヒト大学准教授ハンノ・ザウアー氏の著書『MORAL 善悪と道徳の人類史』から、ネアンデルタール人の精神世界を探り、現代社会のモラルについて考えてみましょう。
現代人の認識を覆すネアンデルタール人の知性
フランス南部の鍾乳洞にあるストーンサークル。ネアンデルタール人によって作られたとされる。
かつて「愚かな野蛮人」と見なされていたネアンデルタール人。しかし、近年の研究により、彼らの知性と精神性は私たちが想像する以上に豊かだったことが明らかになっています。フランス南部のブルニケル洞窟で発見されたストーンサークルは、その一例です。洞窟の深部にあるこの謎めいた構造物は、一体何のために作られたのでしょうか？
ブルニケル洞窟のストーンサークル：儀式と精神世界の繋がり
ブルニケル洞窟内の様子。ストーンサークルは、折れた鍾乳石を並べて作られている。
1990年代初頭、学生ブルーノ・コワルチェフスキーによって発見されたこのストーンサークルは、折れた石筍を円状に並べた構造をしています。その用途は未だ解明されていませんが、専門家の中には、儀式に使用された可能性を指摘する声もあります。踊り、詠唱、あるいは酩酊といった儀式を通じて、彼らは目に見えない世界との繋がりを求めていたのかもしれません。東京大学考古学研究室の山田教授（仮名）は、「ストーンサークルは、ネアンデルタール人の精神世界を理解する上で重要な手がかりとなる」と述べています。
驚くべき適応力と高度な技術
ネアンデルタール人は、過酷な環境の中で生き抜くための驚くべき適応力と高度な技術を持っていました。 彼らは爪楊枝を使用し、動物の皮を加工し、縄も作っていました。これらの活動は、彼らの歯の摩耗からも確認できます。 脳の容量は現代人よりも大きく、厳しい氷河期や急激な温暖化といった環境の変化にも適応し、ヨーロッパ全域に広がっていきました。当時ヨーロッパには、現代も生存しているヤギやウシだけでなく、巨大な森林ゾウやカバ、バーバリーマカクなども生息していましたが、ネアンデルタール人は狩猟技術を磨き、生き抜いてきたのです。 京都大学霊長類研究所の田中教授（仮名）は、「ネアンデルタール人の適応力は、現代人にも学ぶべき点が多い」と指摘しています。
現代社会への示唆
ネアンデルタール人の精神性と適応力から、私たちは現代社会のモラルについて何を学ぶことができるでしょうか？ 異なる文化や価値観を持つ他者を理解し、共存していくためには、偏見を捨て、多様な視点を尊重することが重要です。ネアンデルタール人の歴史は、私たちに「正しさ」とは何かを改めて問い直す機会を与えてくれます。
