生命の起源、進化の過程は、いまだ多くの謎に包まれています。30億年以上前、地球にエベレスト山4つ分もの巨大隕石(S2)が衝突したという衝撃的な事実が明らかになっています。一見、生命にとって壊滅的な出来事と思われがちですが、最新の研究では、この隕石衝突が実は初期生命の進化を促進させた可能性があるというのです。今回は、この驚くべき研究結果について、分かりやすく解説していきます。
巨大隕石S2の衝突:地球規模の大激変
今から32億6000万年前、地球はまだ若い惑星で、現在の姿とは大きく異なっていました。大気組成も異なり、海は鉄分を豊富に含んだ緑色で、生命といえばバクテリアや古細菌といった単細胞生物しか存在しない「生物学的砂漠」のような状態でした。そんな原始地球に、直径37~58キロメートルという途方もない大きさの隕石S2が衝突したのです。
ハーバード大学の地球惑星科学助教、ナジャ・ドラボン氏らの研究によると、この衝突は地球全体を揺るがす大激変を引き起こしました。想像を絶する規模の津波が発生し、衝突地点の海水は沸騰、蒸発。大気中に巻き上げられた塵は太陽光を遮断し、地球全体を暗闇に包み込みました。地表や浅瀬の生物にとっては、まさに壊滅的な打撃だったでしょう。
30億年前の隕石衝突の想像図
深海で起きた奇跡:生命繁栄の鍵
しかし、深海では全く異なる現象が起きていました。衝突の衝撃で、鉄やリンなどの栄養素が海底から巻き上げられ、海面へと供給されたのです。リンは隕石自体にも含まれており、衝突によって放出されました。ドラボン氏は、この現象を「肥料爆弾」と表現しています。まるで植物の成長を促す肥料のように、これらの栄養素は深海の単細胞生物にとって格好の栄養源となり、生命の爆発的な増加を促したと考えられます。
鉄とリン:生命進化の立役者
鉄は生命活動に不可欠な元素であり、特に光合成を行う生物にとっては重要な役割を果たします。リンもまた、DNAやRNAなどの遺伝物質、そしてエネルギー代謝に不可欠なATPの構成要素として、生命にとって欠かせない存在です。これらの栄養素の大量供給は、まさに生命進化の起爆剤となったのです。
東京海洋大学の生命科学研究科、佐藤教授(仮名)もこの説を支持しており、「隕石衝突による栄養素の放出は、初期生命の進化に大きな影響を与えた可能性が高い。特に、鉄とリンの供給は、光合成生物の出現や多様化を促進したと考えられる」と述べています。
隕石衝突による栄養素の放出と生命活動の関係図
隕石衝突:破壊と創造の両面
隕石衝突は、地表の生物にとっては壊滅的な災害でしたが、同時に深海の生命にとっては進化の大きなチャンスとなりました。一見、破壊的な出来事が、生命の進化を加速させるという、地球生命史の驚くべきパラドックスと言えるでしょう。この研究は、生命の起源や進化の過程を解明する上で、重要な手がかりとなるに違いありません。
初期生命にとって、隕石衝突はまさに「災い転じて福となす」出来事だったのかもしれません。この壮大な地球史のドラマに、改めて思いを馳せてみてはいかがでしょうか。