ついに下った「聴覚障害児の逸失利益は健常者と同等」の画期的判決、遺族と長年敵対したのは被告でも裁判所でもなく


【写真】亡くなった井出安優香さん。最後の誕生日(11歳)にお父さんと

 (柳原 三佳・ノンフィクション作家)

■ これまでは「聴覚障害者の能力は健常者に及ばない」が“常識”だった裁判所の判断

 これまでの交通事故判例を大きく覆す画期的な判決が、2月5日に確定しました。

 大阪高裁の徳岡由美子裁判長は、7年前の事故で亡くなった聴覚障害女児が将来得られるはずだった収入「逸失利益」について、「当然に減額する程度の労働能力の制限があるとはいえない」とし、一審の大阪地裁が下した15%減額の判決を0%に変更、つまり、障害がない子どもと同じ基準で算定すべきとして、被告に100%の賠償を命じたのです。

 (参照記事)〈事故死の聴覚障害児の逸失利益 大阪高裁が「健常児の100%」と初判断〉(産経新聞 2025.1.20)

 以下、判決文からその根拠となった一文を抜粋します。

 〈安優香の中枢系能力は、平均的なレベルの健聴者の能力と遜色ない程度に備わり、聴力に関しても、性能が飛躍的に進歩した補聴器装用に併せて、一定程度不足する聴力の不足部分を手話や文字等の聴力の補助的手段で適切に補うことにより、支障なくコミュニケーションができたと見込まれるから、安優香は、聴覚に関して、基礎収入を当然に減額するべき程度に労働能力の制限があるとはいえない状態にあるものと評価することができる〉

 〈本件事故当時においても、将来、障害者法制の整備、テクノロジーの目覚ましい進歩、さらには聴覚障害者に対する教育、就労環境等の変化等、聴覚障害者をめぐる社会情勢や社会意識が著しく前進していく状況は予測可能であった〉

 高裁判決直後の記者会見で、父親の努さんは涙をぬぐいながらこう語りました。

 「娘が亡くなってから、ずっと泣いてきました。が、娘のことで泣くのは今日で最後にしたいと思います。弁護団の先生方や大阪聴力障害者協会の支援者の方、また、たくさんの署名に賛同して下さった方々に心よりお礼申し上げます。安優香も晴天の空から、皆様に『ありがとう』と言っていたと確信しています」



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