トランプ米政権が「パリ協定」から離脱すれば、先進国と新興国がともに温室効果ガス削減を進める同協定の取り組みが骨抜きになる懸念がある。米国は排出量が中国に次ぐ世界2位の大きさで、国際的な温暖化防止策の推進に不可欠な存在だからだ。一方、フランスなど欧州各国はパリ協定維持への努力を続ける構え。パリ協定は来年11月の大統領選でも大きな争点になるとみられ、各国は米国の選挙戦の行方も見据えながら、地球温暖化対策の道を探ることになる。
「パリ協定順守のため、われわれは来年、新たな目標を設定せねばならない」
フランスのマクロン大統領は5日、訪問先の上海での演説で地球温暖化対策に強い意欲を示した。ただ仏大統領府の声明は「予期されたことだが、残念だ」としており、失意は隠せない。
2015年に合意されたパリ協定は新興国も先進国と同様に削減を進める国際枠組みだ。先進国だけに削減義務が課され、実効性が疑問視されることもあった1997年採択の京都議定書の教訓を踏まえて、公平性が増したとされる。
しかしトランプ大統領はパリ協定離脱が持論。このため今回の米国の動きに意外性はないが、米国が自ら主導したパリ協定に背中を向けることが国際的な機運に与える影響は否定できない。マクロン氏は「中国とEUの協力が決定的に重要だ」とも述べており、米国の国際的な指導力を危ぶむ向きもある。
一方、欧州連合(EU)は新たな温暖化対策を打ち出している。欧州委員会のフォンデアライエン次期委員長は7月、2050年に温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする目標を法制化すると公約。EUは排出量を1990年比で40%削減する目標を掲げてきたが、これを55%まで高める方針も示した。
排出量「実質ゼロ」を目指す動きは、EU各国にも広がっている。スウェーデンが2045年の目標を法制化したほか、英国やフランス、デンマークは50年までの目標を掲げる。
今後の焦点のひとつは1年後に迫った米大統領選だ。トランプ氏がパリ協定離脱を公約に掲げる一方、トランプ氏と争う民主党の候補らはパリ協定を支持する立場を鮮明にしている。
常葉大学経営学部の山本隆三教授は、米国がパリ協定から離脱したとしても州レベルでの環境対応が進んでいることなどから、米国の温室効果ガス削減に向けた取り組みに大きな影響が出ることはないと分析。そのうえで、「誰もトランプ政権の政策がずっと続くと思っていないし、来年の大統領選の結果でもまた政策が変わるかもしれない」と話している。