老朽化進む日本のインフラ:崩壊を防ぐための対策とは?

近年、日本のインフラ老朽化が深刻な問題となっています。埼玉県八潮市の道路陥没事故などは、その象徴的な出来事と言えるでしょう。このままでは、同様の事故がさらに増加するリスクも懸念されます。そこで、インフラ崩壊を防ぐために必要な対策を、専門家の知見を交えながら解説します。

インフラ老朽化の現状

埼玉県八潮市の道路陥没事故現場埼玉県八潮市の道路陥没事故現場

1980~90年代のインフラ整備期には、将来の老朽化問題は軽視されていました。しかし、2000年代後半から多くの専門家が警鐘を鳴らし始め、東洋大学の根本祐二教授もその一人です。根本教授は、経済や社会のマクロな視点から老朽化対策に必要な財源不足について提言を続けています。

インフラ更新に必要な費用は年間15兆円超?

2022年、根本教授は国内インフラの更新費用を試算しました。総務省の「公共施設更新費用試算ソフト」を用いた結果、年間12.9兆円もの費用が必要だと判明。内訳は公共施設が6.3兆円、土木インフラが6.6兆円、下水道だけでも1.2兆円に上ります。さらに、近年の建設コスト増加を考慮すると、現在は約15.5兆円に達すると推測されます。

インフラ投資の現状と課題

インフラ更新に必要な投資額インフラ更新に必要な投資額

日本の名目公的総固定資本形成は約29兆円。一見、更新費用を賄えるように見えますが、これは新設、増設、改修、更新全てを含んだ金額です。特に新設には多額の投資がなされており、今後も新たなインフラ整備は必要不可欠。そのため、更新費用に投資額の半分を充てるのは現実的ではありません。

高度経済成長期には名目GDPの10%を占めていたインフラ投資も、現在は5%台にまで低下しています。この財源不足を解消し、持続可能な社会を実現するためには、新たなアプローチが求められています。

「省インフラ」で費用を削減

限られた予算の中で効果的な老朽化対策を行うには、「省インフラ」の推進が不可欠です。根本教授は、全国的に省インフラを展開することで更新費用を40%削減、年間7.7兆円に圧縮できると試算しています。

公共施設の集約化・共用化・多機能化

小中学校や公民館などの公共施設は、機能を維持しながら集約化、共用化、多機能化を進めることで総量を減らすことが可能です。例えば、複数の学校を統合したり、公民館を図書館やコミュニティセンターと併設するなど、地域の実情に合わせた工夫が重要です。

土木インフラの予防保全とリスク・ベース・マネジメント

道路や橋梁などの土木インフラは公共性が高いため、安易に減らすことはできません。しかし、予防保全によって修繕や部品交換を早期に行い、大きな事故を未然に防ぐことで、事後対応費用を削減できます。

また、リスク・ベース・マネジメントも有効な手段です。インフラの重要度に応じて更新間隔などを調整することで、限られた予算を効率的に活用できます。富山市では、橋梁のトリアージを実施し、重要な橋を優先的に修繕・更新、優先度の低い橋は撤去・集約することで、50年間で730億円のコスト削減を見込んでいます。

PPP(官民連携)による効率化

民間にインフラの建設・維持管理・運営を委託するPPPも、費用抑制に繋がります。上下水道のような受益者負担インフラでは、コンセッション方式が一般的です。自治体はインフラの所有権を保持したまま、運営権を民間に設定することで、効率的な運営と費用の削減を図ることができます。

まとめ

日本のインフラ老朽化は深刻な問題であり、早急な対策が必要です。「省インフラ」や予防保全、リスク・ベース・マネジメント、PPPなど、様々な取り組みを組み合わせて費用を抑制し、安全で持続可能な社会を実現していくことが重要です。