イギリス労働党のチキンレース:移民対策で迷走、NHSはどこへ?

英国在住の作家、ブレイディみかこ氏がAERAで鋭く指摘したイギリス労働党の迷走ぶり。まるで風見鶏のように右往左往する姿は、有権者の信頼を失墜させかねない状況となっています。今回は、移民対策に翻弄される労働党の現状と、国民の切実な願いであるNHS(国民保健サービス)への影響について深く掘り下げていきます。

トランプ氏の真似事で支持率回復を狙うも…

近頃、イギリスでは不法移民を強制送還する映像がBBCで繰り返し放送されています。一見するとアメリカの話のようですが、実はこれはイギリスで起きている出来事。左派政党として知られる労働党が、トランプ前大統領の政策を模倣した強硬な移民対策に乗り出したのです。背景には、右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の支持率上昇があります。YouGovの世論調査によると、リフォームUKは二大政党を抜き、支持率トップに躍り出たのです。

alt: 飛行機に乗せられる不法移民alt: 飛行機に乗せられる不法移民

この状況に危機感を抱いた労働党は、有権者の右傾化に対応しようと、トランプ流の政策を取り入れ始めました。しかし、この戦略は完全に裏目に出ています。労働党支持者からは怒りの声が上がり、右派支持者からも「単なるパフォーマンス」「リフォームUKへの過剰反応」と冷ややかな視線を向けられています。政治アナリストの田中一郎氏も「模倣戦略は、オリジナルを超えることはできない」と指摘しています。結局、誰の心も掴むことができず、支持率回復には繋がっていないのが現状です。

緊縮財政はどこへ?巨額の移民対策費用

さらに問題なのは、この「トランプ式」移民対策に巨額の費用が投じられていることです。英紙によると、その額はなんと約4億ポンド(約800億円)。これまで緊縮財政を続け、「国の借金が多いため、医療や教育への支出は難しい」と増税まで断行した政府が、なぜこのような巨額の支出を可能にしたのでしょうか?国民からは疑問の声が上がっています。

国民にとって重要なのは、移民対策ではなく、NHSの充実です。9年前のEU離脱の際、「離脱すればEUへの拠出金をNHSに回せる」という主張を信じた国民は少なくありませんでした。しかし、現実は大きく異なり、NHSは慢性的な財政難に苦しんでいます。

NHS立て直しこそ労働党の使命

本来、NHSの立て直しこそが、労働党の最重要課題であるはずです。NHSは、英国民にとってなくてはならない存在であり、「英国の魂」とも呼ばれています。その創設に貢献した労働党が、なぜNHSを軽視しているのでしょうか?

現状を見る限り、労働党は理念を失い、ただ人気のある政策を模倣するだけの「チキン政党」と化しているように見えます。右派にも左派にも、緊縮財政にも反緊縮財政にも迎合せず、ただ「売れている政党」の真似をすることで乗り切ろうとしているのです。

若年層の多くが「強力なリーダーシップ」を求めているという調査結果も、現状の労働党への失望の表れと言えるでしょう。真に必要なのは、国民の声に耳を傾け、NHSをはじめとする社会保障の充実を図ることです。労働党は、本来の理念を取り戻し、国民の信頼を回復できるのでしょうか?今後の動向に注目が集まります。