東京都心のマンション価格高騰が止まらない。2025年10月度の東京23区新築分譲マンションの平均価格は1億5313万円を記録し、前年同月比で18.3%も上昇した。この驚異的な価格上昇を牽引しているのは、東京メトロ千代田線「乃木坂」駅直結の「Brillia Tower 乃木坂」のような超高額物件である。第1期販売では20戸が即日完売し、平均価格は6億円を超えるという驚くべき状況だ。しかし、この価格高騰の背景には、単なる富裕層による需要だけでなく、不動産市場を根本から変えるもう一つの要因が存在する。不動産コンサルタントである岡本郁雄氏のレポートに基づき、都心不動産高騰の深層と、意外な関係性を持つ「ホテル」の存在に迫る。
記録的な価格上昇が続く都心不動産市場
新築分譲マンションだけでなく、中古マンション市場も活況を呈している。東日本不動産流通機構の発表によると、2025年10月度の首都圏における中古マンション成約件数は4222件で、前年同月比36.5%の大幅増を記録した。成約価格も平均5325万円と、前年同月比で12.4%上昇している。
特に目覚ましい伸びを見せているのが都心エリアだ。千代田区、中央区、港区からなる都心3区では、2025年10月度の成約件数が前年同月比62.8%増の298件に達した。成約の平米単価は前年同月比19.7%上昇し、成約平均価格は1億3546万円となっている。
株式会社ワンノブアカインドが運営する「マンションレビュー」の調査によれば、2025年9月の全国中古マンション相場推移で、エリア単位の対前年価格上昇率トップは「都心5区エリア(千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区)」の+38.5%だった。3年前と比較すると+96.9%、5年前と比較して118.9%、10年前と比較すると156.3%の上昇となっており、特に直近3年間で都心マンション価格が急激に上昇したことがわかる。
超高額物件が牽引する市場と建設コストの課題
都心の中古マンション価格を押し上げる主要因は、新築マンション価格の著しい上昇にある。「Brillia Tower 乃木坂」の他にも、「ブランズタワー大崎」や「シティタワー東京田町」など、2025年に販売が開始されたJR山手線徒歩圏のタワーマンションでは、坪単価1000万円を超える物件が数多く見られる。これは20年前の相場のおよそ3倍に相当する高水準だ。坪単価1000万円の場合、わずか20坪の広さでも価格は2億円に達するため、中古マンションに注目が集まるのは自然な流れと言える。
「山手線の内側の人気エリアでは、坪1000万円以下で新築マンションを購入することが不可能になるだろう」という予測は、不動産業界では以前から共有されていた。建築費の高騰に加え、用地価格の上昇が続き、原価ベースでかつてのような価格で新築マンションを分譲することが事実上不可能になっていたためだ。
不動産高騰を加速させる「ホテル」の存在
都心不動産の価格高騰を語る上で見逃せないのが、「ホテル」の存在である。2018年秋、筆者は台風接近により都心のホテルを予約しようとした際、多くのビジネスホテルが満室であることに気づいた。ようやく予約できた秋葉原のホテルの宿泊料からイメージされる収益額が、賃貸マンションを遥かに上回っていたのだ。
ワンルームの半分程度の広さの部屋が1泊1万2000円。これを30日間フル稼働と仮定すると、月額36万円の収益となる。仮にワンルームと同じ広さであれば、月額72万円だ。秋葉原駅徒歩圏のワンルームマンションの相場が現在でも月13万円程度であることを考えると、運営コストを考慮してもホテルの収益性が圧倒的に有利であることが明らかになる。この高い収益性に着目し、台東区(御徒町駅、上野駅、浅草駅など)では、2020年東京オリンピックを見据えたホテル建設ラッシュが起こり、その動きは現在も続いている。
乃木坂駅の標識。都心の主要駅は不動産価値が高い。
ただし、どこでもホテルが建設できるわけではない。ホテル建設が可能な用途地域に指定されている必要があり、駅から離れた立地などホテルに適さない場所も存在する。一般的に、商業地域、近隣商業地域、準工業地域、準住居地域などが一定規模のホテル建設を許可している。例えば、ホテル開業が特に目立つ台東区では、区全体の3分の2以上が商業地域に指定されている。加えて、インバウンド旅行客に人気の高い浅草や上野といった観光地を抱えていることも、ホテル需要と供給の増加に拍車をかけている要因となっている。
都心マンションの価格高騰は、高まる需要と建設・用地価格の上昇に加え、ホテル開発による土地利用の収益性向上が複合的に作用した結果と言える。特に、インバウンド需要に支えられたホテルの高い収益性が、マンション開発業者を含む土地所有者に新たな収益機会をもたらし、結果として都心部の土地価格全体を押し上げている構図が見て取れる。この複雑な要因が絡み合うことで、東京の不動産市場はかつてない高騰を続けており、今後の動向が注目される。





