高市早苗首相の「台湾有事」を巡る発言が波紋を広げ、日本人アーティストの中国公演が相次いで中止となる事態に、音楽業界から異議の声が続々と上がっています。シンガーソングライターの春ねむりが自身のX(旧Twitter)で「黙るな。怒れ。抗議しろ」とポストしたことを皮切りに、多くのアーティストがこの現状に対し懸念を表明しています。
「軽率な自己アピール」が招いた文化交流の断絶
今回の公演中止の状況に対し、シンガーソングライターの七尾旅人は11月20日、Xにて「高市氏の軽率な自己アピールで、東アジアの安定が大きく損なわれた。その余波は文化交流にも及び、日本人音楽家の中国公演許可が続々取り消しになっている」と投稿しました。彼は、相互に時間をかけて築き上げてきた信頼関係が一瞬で壊れてしまうことへの無念さを表明し、隣国の仲間たちへの申し訳ない気持ちを綴っています。
ロックバンドGEZANのボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポーも22日、高市首相の海外出張での「服選び」に関するポストに対し、「マジでシンプルになんでこんなバカが国のトップなの?センス磨いてやるからGEZANの武道館こいよ」と激しい言葉で批判しました。さらに彼は、「中国には大好きな人たちがいる。積み上げてきた時間もある」「そういう繋がりを断ち切りかねない高市総理の危険な感覚に警戒しない方がおかしくない?」と、自身の音楽活動と個人的な繋がりの重要性を強調。友情や感性の自由が政治によって妨げられることへの強い抗議を示しました。
高市首相の海外出張に関する投稿に激怒したGEZANのボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポー
ファンキー末吉が語る「中国ロックの現実」
こうした日本のミュージシャンたちの“怒り”に対し、中国との深い繋がりを持つベテランミュージシャン、爆風スランプのドラマーとしても知られるファンキー末吉は、異なる視点からXで意見を述べました。彼は11月26日までに、「中国ロック40年の歴史の中で、それこそ数限りないほどの公演が中止されてきたのを見てきた。たった一度の公演が中止されたからといってそんなに怒ってたりすることが私にはよく理解できない」とポスト。
ファンキー末吉は、1990年に初めて北京を訪れて以来、中国のロックシーンに深く関わってきました。当時は「精神汚染音楽」とされていたロックを演奏する若者たちに感銘を受け、現地での音楽活動を開始。「大陸ロック漂流記: 中国で大成功した男」を出版し、2001年には生活拠点を北京に移しています。現地若手ミュージシャンのプロデュースや中国映画の音楽制作に携わるなど、日中の文化交流の架け橋となって活動してきました。中国語も堪能で、その著作や結婚歴からも、中国の国情や音楽事情を肌で知る人物です。
中国のロックシーンに半生を捧げたベテランドラマー、ファンキー末吉彼の投稿は、「みんなずっとここでそうやってロックをやってきた。この国でロックをやるということはこういうことだと思う」と続き、11月27日時点で194万回ものインプレッションを記録。多くの共感を集め、「ついに本物が動いたか」「あなた以上にこの件へのアンサーを持ち得る人物はいません」といった声が寄せられました。
相次ぐ公演中止に怒りの声を上げていた日本の若手ミュージシャンたちは、中国を誰よりも深く知る大御所ドラマーからのこの発言を、どのように受け止めるのでしょうか。





