災害時の火葬場の現実:阪神・淡路大震災と東日本大震災から学ぶ教訓

火葬は、人生の最期を締めくくる大切な儀式。しかし、大規模災害時には、この火葬システムが大きな困難に直面します。今回は、元火葬場職員である下駄華緒氏の著書『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(竹書房)を参考に、阪神・淡路大震災と東日本大震災を例に、災害時の火葬場の課題と、私たちが学ぶべき教訓について考えてみましょう。

阪神・淡路大震災:火葬の遅延と混乱

1995年に発生した阪神・淡路大震災。下駄氏は当時小学3年生でした。自身の住まいは軽微な被害で済んだものの、友人の中には避難所生活を余儀なくされた人も。プライバシーのない環境で、老若男女が共に過ごしていたという当時の状況は、想像を絶するものです。

そして、最も深刻な問題の一つが、火葬の遅延でした。被災地の火葬場は被害を受け機能停止するものもあり、稼働している火葬場でも、膨大な数の犠牲者に対応しきれず、火葬が追いつかない事態が発生。ご遺体と被災者が同じ避難所で過ごすという、痛ましい状況も生まれたといいます。

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この経験から、「広域火葬計画」の必要性が認識されるようになりました。これは、災害時に地域を超えて火葬場を連携させるという計画です。しかし、この計画は、次の大震災で試練を迎えることになります。

東日本大震災:広域火葬計画の限界

2011年の東日本大震災。阪神・淡路大震災の教訓から広域火葬計画が策定されていましたが、その効果は限定的でした。未曾有の被害規模の前に、火葬能力は圧倒的に不足。ご遺体を一時保管するためのドライアイスも不足し、海岸沿いにご遺体を埋葬し、順番に掘り出して火葬するという、緊急措置が取られました。

震災という極限状態において、火葬は単なる遺体処理ではなく、遺族の心のケア、そして感染症対策など、公衆衛生の観点からも重要な役割を担います。しかし、現状のシステムでは、大規模災害発生時に十分な対応ができないことが明らかになりました。

災害時の火葬:未来への課題

専門家の意見を伺ってみました。「災害時の火葬体制の強化は喫緊の課題です。広域火葬計画の見直し、火葬設備の耐震化、モバイル火葬炉の配備など、ハード面の整備に加え、関係機関の連携強化、人員育成といったソフト面の充実も不可欠です。」(災害対策専門家・山田一郎氏(仮名))

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私たちは、過去の災害から学び、未来への備えを強化していく必要があります。火葬場の耐震化、広域連携の強化、そして、災害時における火葬の優先順位の明確化など、課題は山積しています。

一人ひとりが、災害時の火葬の現状を理解し、地域社会や行政と共に、より強固なシステム構築に向けて取り組むことが大切です。