発達障害児いじめ訴訟、横浜地裁で審理開始:加害と親の責任を問う

神奈川県内の公立小学校に通う男子児童Aくん(現在は中学生)が、同級生Bくんから継続的かつ執拗ないじめを受け不登校に至ったとして、Bくんの両親を相手に慰謝料等約478万円の損害賠償を求め、横浜地方裁判所に民事訴訟を提起しました。本件いじめ訴訟は、発達障害を持つ児童への不法行為と、その親の責任を問うもので、社会に警鐘を鳴らしています。

横浜地裁で発達障害を持つ児童へのいじめを巡る民事訴訟が開かれた様子横浜地裁で発達障害を持つ児童へのいじめを巡る民事訴訟が開かれた様子

発達特性を持つAくんと家族の懸念

Aくんは、発達障害の一つである「自閉症スペクトラム症(ASD)」の診断を受けており、聴覚と触覚が過敏で、ささいな刺激でも苦痛を感じることがあります。AくんにASD傾向があることは小学校入学後に発覚し、1年生の時には確定診断ではないものの、通院を継続していました。4年生になると特性はさらに強まりましたが、「知能が高い」という理由から特別支援学級の対象外と判断されました。Aくんが通う小学校には支援級がなく、母親は送迎の課題から転校を選択せず、元の学校に通わせ続けました。当初、母親はAくんがパニックを起こして物を投げることもあったため、学校で加害者になることを懸念していましたが、結果的にAくんがいじめの標的となってしまいました。

エスカレートするBくんの暴言と暴力

訴状によると、Aくんは5年生に進級した2023年5月頃から、同じクラスのBくんから日常的に暴力や暴言を受けるようになりました。母親の証言によれば、当初は「じゃれあい」のように見えた行為も、時には担任が遊びではないと確認するほど強い力で蹴られるなどエスカレートし、Bくん自身もAくんを蹴った事実を認めていました。

Bくんは5月15日以降、「Aは自閉症じゃないでしょ」「障害じゃないでしょ」と、Aくんの発達特性を否定し嘲笑するかのような発言を執拗に繰り返しました。さらに、5月22日にはダンスの練習中にAくんを蹴飛ばし、その暴行から逃れるためトイレの個室に閉じこもったAくんを追いかけ、隣の個室の壁を登って上部の隙間からのぞき込むという行為に及んでいます。

6月頃からはこれらのいじめ行為は一層激化しました。暴行を受けてAくんが床に座り込んだり寝転がったりすると、Bくんは「大げさだ」「被害者ぶってる」と罵り、顔や腹などを踏みつけるような威嚇行為を繰り返しました。同時期には、Bくんはプールサイドや教室で、「ウォエー」「キモイ」「オェー、A恐怖症なんだ」といった露骨な表現や言葉を用いてAくんを侮辱する発言も行いました。

極めつけは、Bくんが7月3日に教室の掃除の時間中、「頭でか〜性格悪いやつ〜死んでほしい〜」などと歌いながら暴言を吐いたことです。この時を含め、Bくんは教室などでAくんに向かって少なくとも3回、「死ね」と言い放ったと訴状には記載されています。これらの行為は、単なる暴行や暴言に留まらず、BくんがAくんの発達特性を認識した上で執拗にからかい続けるなど、極めて悪質な差別的言動でした。

問われる加害児童の親の責任

Aくん側は、Bくんの一連の行為が「不法行為と評価し得る程度の違法性」を明確に有していると主張。このため、Bくんの法定監督義務者である両親に対し、慰謝料を含む損害賠償を求めて民事訴訟を提起しました。7月に横浜地方裁判所で行われた第一回口頭弁論には、Aくんと母親、そして代理人弁護士が出廷しました。一方、Bくん側は欠席したものの、答弁書を提出し、Aくん側の主張に対し争う姿勢を示しています。今後、裁判の審理がどのように進展し、どのような判断が下されるのか、その行方が注目されています。

本件いじめ訴訟は、発達障害を持つ児童がいじめの対象となり、心身に深い傷を負わされたという深刻な実態を浮き彫りにしています。学校現場における発達特性への理解と適切な対応の重要性、そして加害児童の親が負うべき監督責任について、社会全体に再考を促すものでしょう。横浜地方裁判所での審理を通じて、いじめの根絶に向けた具体的な教訓と、被害者救済のあり方が明確に示されることが強く期待されます。

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