日銀の相次ぐ利上げを受け、「住宅ローン金利」が上昇に転じている。各金融機関は流れに抗う形の金利優遇などで顧客獲得に力を入れるが「利上げ局面での借り入れには細心の注意が必要」と専門家は警鐘を鳴らす。【前後編の前編】
政策金利0.5%という日銀の追加利上げを受け、2月末、大手銀行各社は3月から適用する住宅ローン金利を発表した。長期金利に連動する「固定型(期間10年)」の基準金利が年3.85~4.45%(最優遇金利は年1.610~2.150%)に引き上げられた一方、短期プライムレートに連動し、住宅ローン契約者の約8割が利用する「変動型」は年2.475~2.625%(同0.345~0.625%)に据え置かれた。しかし、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFS取締役の塩澤崇氏はこう指摘する。
「変動型も4月に日銀の利上げ分と同じ0.25ポイントの金利が上がり、新規にローンを組む場合は4月の契約から、返済中のローンについては7月頃の支払い分から適用されます。日銀の利上げ姿勢を踏まえると、2026年末までに政策金利が1~1.5%程度まで上がる可能性があり、変動型もさらにプラス0.5~1ポイント程度上がると考えたほうがいい」(以下「」内コメントは塩澤氏)
シンクタンク・みずほリサーチ&テクノロジーズも、2%の物価上昇を達成し安定的かつ持続的に推移した場合「2026年度に変動型金利は4%に達する」(23年11月レポート)と予測。バブル期の住宅ローン金利(変動型)が8%を超えていたことを踏まえれば、非現実的な数字と一蹴することはできないだろう。
一方で、住宅ローンの新規借り入れ、借り換え需要を掘り起こそうとする銀行間の競争が激化し、「顧客獲得のため、日銀の利上げをそのまま転嫁せず、優遇幅(基準金利からの引き下げ幅)を拡大する銀行が出てくる可能性もある」という。
実際、昨年7月の追加利上げ後に多くの銀行が変動型の基準金利を引き上げたなか、メガバンクの三菱UFJは新規の最優遇金利を0.345%に据え置いた。ネット銀行ではPayPay銀行やauじぶん銀行が、変動型で借り換える顧客への最優遇金利を0.3%台に引き下げている。
だが、都市部を中心に不動産価格の高騰が続くなか「まだ0%台で超低金利が続いている」からと焦ってローンを組んだり、借り換えや繰り上げ返済をすると思わぬ落とし穴に嵌まることもある。
別掲の表は、この先、住宅ローン金利が上昇した際の月額負担額(増加分)を借り入れ元本別に試算したものだ(いずれもボーナス払いなしの35年・元利均等返済を想定)。たとえば0.5%の変動金利で3000万円のローンを組んだ場合、金利が2%に上昇すると、月の支払額は約7万80000円から約9万9000円となり、月の負担額は2万円以上増える。
自身のローン残債額をもとに、金利がどこまで上がると毎月の返済額がいくらになるか確認してほしい。家計が成り立たなくなる“危ない組み方”になっていないだろうか。日銀の利上げは国民生活を苦しめるインフレ(物価高)の抑制が目的のひとつだが、それに伴って家計に迫るリスクも認識する必要があるのだ。
■後編記事:利上げ局面で住宅ローンを組む際のポイント 「返済総額」「ペアローン」「期間」「金利」「借り換えの判断基準」“金利がある世界”での賢いローンの組み方
※週刊ポスト2025年3月21日号