地下鉄サリン事件から30年。未曽有のテロ事件の裏側で、科捜研の研究員たちは犯人逮捕に向け、日夜を問わず分析に奔走していました。今回は、警視庁科学捜査官だった服藤恵三氏の著書『警視庁科学捜査官』(文春文庫)を基に、知られざる捜査のドラマに迫ります。緻密な分析から浮かび上がったオウム真理教の組織構造とは?そして、麻原彰晃逮捕への道のりは?
サリン生成の証拠分析、そして組織解明へ
猛毒サリン生成の証拠分析は、想像を絶する困難を極めました。科捜研研究員の服藤氏は、連日深夜まで及ぶ分析・報告・相談に追われ、寝る間も惜しんで捜査に没頭していたといいます。
地下鉄駅から運び出される乗客
4月17日、それまでの分析結果をまとめた「サリン生成に関する証拠の分析結果について」が完成。深夜0時過ぎ、刑事部長室で石川部長に報告を行っていると、寺尾一課長も加わりました。
事件解明の鍵を握るオウム真理教の組織構造。石川部長は「誰か、オウムの組織がわかるやつはいないかな」と呟きます。寺尾一課長は「全体がわかる者はいませんね」と答えました。
その時、服藤氏は「あのぉ。それって、麻原の下に科学技術省大臣の村井秀夫や建設省大臣の早川紀代秀がいて、村井の下に次官のWやTがいる、というような組織図ですか」と発言します。
松本智津夫元死刑囚(麻原彰晃)
驚いた石川部長と寺尾一課長は、同時に服藤氏に問いかけます。「ハラさん(服藤氏)、それわかるのか」「服藤君、どうしてわかるんだ」
服藤氏は「私は捜査のことはわからないし内容も聞いていませんが、科学的な部分だけ読み込んでいても、それぐらいはわかります」と答えました。
科学的分析から見えてきた組織の全貌
実験ノート、フロッピーディスク、信者の手帳類…服藤氏は、科学的な内容が記載されている箇所を徹底的に読み込んでいました。その結果、「誰に報告」「誰に指示」といった上下関係や、登場する人物のホーリーネームまで把握していたのです。
専門家A氏(犯罪組織分析専門家)は、「科学的証拠の分析から組織構造を解明する手法は、複雑な組織犯罪を解き明かす上で非常に有効です。服藤氏の緻密な分析力は、麻原逮捕に大きく貢献したと言えるでしょう」と語っています。
服藤氏の地道な分析が、未曽有のテロ事件解明の糸口となったことは間違いありません。事件から30年経った今、改めてその功績を振り返る必要があるでしょう。