「製造業の復活」はトランプ米大統領が掲げる経済分野の看板政策だ。3年前の大統領選で、「ラストベルト(さびた工業地帯)」と呼ばれる中西部の労働者の心をつかみ当選した。全米3位の製造業生産額を持つオハイオ州も、そのひとつ。活況に沸く同州の産業界を取材すると、多くの事業者が「労働者不足」に悲鳴をあげていた。人材難のボトルネックは、再選を狙うトランプ氏が訴えたい「製造業の米国回帰」の壁となりかねない。(ワシントン支局 塩原永久)
■専門人材が足りない
10月末、オハイオ州北東部ハドソンにある全米屈指の玩具メーカー「リトル・タイクス」の工場を訪れると、プラスチック成形機が部品を続々と排出する動きに合わせ、従業員が手際よく部品からはみ出た「バリ」を取り除いたり、製品を箱に詰めたりしていた。
同社の人気ブランド「LOLサプライズ!」の人形は看板商品で、日本でも人気が出ている。その人形を入れるプラスチック・ケースの一部生産ラインを、2年前に新型の製造装置を導入したのを機に、中国からハドソン工場に移管した。
ロザンヌ・クビスティ副社長は「米国への生産回帰はトレンドだ」と話し、米国生産の開始は、人件費や材料費、運搬費をはじめとした「生産コストの分析をもとに判断した」と話す。
安価な人件費を武器に「世界の工場」となった中国だが、最近はコスト上昇にさいなまれる。リトル・タイクスも自動化が進んだ生産効率の高い製造装置導入で、一部を米国で生産してもコスト競争力を維持できるとの判断だ。
クビスティ氏が大きな課題だと打ち明けるのが人材不足だ。米国での生産拡大を視野に入れているが、ケースの生産ラインを3交代制で担当する100人程度の人員の採用が容易ではない。「地域で人材の奪い合いになっている」(クビスティ氏)ためだ。特に「生産管理などの(製造業の)専門知識を持つ人材」(工場長)が足りず、クビスティ氏は「わが社にとって挑戦だ」と身構える。
■外国企業が原動力に
もっとも、米国回帰の潮流が加速するとの見方は少ない。オハイオ州立大学のエドワード・ヒル教授は、労働力の逼迫(ひっぱく)が製造業のボトルネックとなっており、米国への生産回帰を目指すトランプ氏が「できることは限られている」と語る。