米大統領選とSNS:情報操作と世論分断の実態

アメリカ大統領選挙において、SNSは候補者にとって欠かせないツールとなっています。しかし、その影響力の拡大は、偽情報や中傷の拡散、世論の分断といった深刻な問題も引き起こしています。今回は、2024年アメリカ大統領選挙を事例に、SNSと選挙の複雑な関係性について掘り下げていきます。

SNSを通じた情報操作の実態

2024年大統領選では、X(旧Twitter)をはじめとするSNS上での情報操作が大きな問題となりました。特に、共和党支持者による民主党の移民政策に対する批判的な投稿が拡散され、世論を大きく揺るがしました。当時Xのオーナーであったイーロン・マスク氏自身も同様の主張を繰り返し、物議を醸しました。米CNNはこれらの主張を「根拠のない陰謀論」と批判しています。

マスク氏と大統領選に関する報道マスク氏と大統領選に関する報道

ワシントン・ポスト紙の調査によると、2023年7月から2024年10月下旬にかけて、共和党支持者のXへの投稿の閲覧数は75億回に達し、民主党支持者の33億回の2倍以上となりました。同紙は、マスク氏が選挙期間中にアルゴリズムを変更し、トランプ氏のメッセージが拡散しやすいように操作したと指摘。この操作が若年層の投票行動に影響を与え、世論誘導につながった可能性があると分析しています。

オーストラリア・モナッシュ大学のマーク・アンドレイエビッチ教授も、Xのアルゴリズム変更について「不透明で、右派の投稿が優遇される傾向が見られた」と指摘しています。

法整備の遅れと外国勢力の介入

アメリカでは、バイデン前政権時代にSNS規制に関する議論が活発化しましたが、包括的な法整備には至っていません。ブルッキングス研究所のダレル・ウェスト氏は、「米国内のSNSは連邦政府の規制がない状態」と現状を説明しています。

このような規制の空白状態の中で行われた大統領選では、外国勢力による介入も疑われています。投票前日には、米CBSのニュース番組を装い、「FBIがテロ攻撃の可能性を発表し、投票所に行かないように」と警告する偽映像がSNSで拡散され、大きな混乱を招きました。この映像はロシア関連グループの作成とみられ、後に削除されました。

SNSと選挙の未来

SNSは、情報収集や意見交換の場として重要な役割を果たしていますが、同時に情報操作や世論分断のリスクも孕んでいます。民主主義の根幹を揺るがす可能性のあるこれらの問題に対して、プラットフォーム事業者、政府、そして私たち一人ひとりが真剣に向き合い、解決策を探っていく必要があります。 今後の選挙において、SNSとの適切な付き合い方が問われることになるでしょう。