SNSの普及は情報伝達の民主化に貢献する一方で、偽情報やヘイトスピーチの拡散、そして選挙操作といった負の側面も浮き彫りにしています。この記事では、ドイツ連邦議会選を事例に、SNSを通じた選挙介入の実態とEUの取り組みについて解説します。
ドイツ連邦議会選におけるSNSの影
2024年ドイツ連邦議会選では、強硬右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しました。その背景には、イーロン・マスク氏によるSNSを通じたAfDへの支持表明があったと指摘されています。マスク氏はX(旧Twitter)上でAfD共同党首と対談し、AfD支持を訴えました。この対談は20万人以上が視聴し、AfDの主張が広く拡散されました。中には「ナチスは共産主義者だった」といった歴史的誤認を含む過激な発言も含まれていましたが、マスク氏はこれに同調。この一件は、SNSが選挙に与える影響力の大きさを改めて示すものとなりました。政治学者ヨハネス・ヒリエ氏はこの行為を「欧州への選挙干渉だ」と批判しています。
マスク氏とAfD共同党首の対談の様子
ドイツには偽情報削除を義務付ける「ネットワーク執行法」が存在しますが、マスク氏の発言に対しては違法性は問われていません。SNS事業者は「言論の自由」を盾に、対応を避けるケースが多いのが現状です。
EUのデジタルサービス法(DSA)とアルゴリズム透明性欧州センター
このような状況に対し、EUは巨大IT企業に偽情報拡散防止を義務付ける「デジタルサービス法(DSA)」を施行しました。DSAは違反企業に世界売上高の6%もの罰金を科すことができる強力な規制です。EUはXに対し、違法情報の削除義務違反への警告を発しており、ドイツを含む4件の選挙におけるSNSの影響を調査中です。
アルゴリズム透明性欧州センターで解析にあたる職員
スペインのセビリアには、DSAに基づきSNS事業者を監視する「アルゴリズム透明性欧州センター」が設置されています。35人の専門家がデータ解析などを通して違反行為の証拠収集にあたっています。センター長のアルベルト・ペーナ氏は、「EUでプラットフォームを運用したいなら、ルールに従う必要がある」と強調しています。しかし、膨大なデータの解析には時間を要するのも事実です。
SNSと選挙の未来
SNSは現代社会において不可欠なコミュニケーションツールとなっています。しかし、その影響力の大きさゆえに、選挙への介入や民主主義の根幹を揺るがす危険性も孕んでいます。DSAのような規制は、健全な情報環境を維持するための重要な一歩と言えるでしょう。 今後、SNSと選挙の関係はどのように変化していくのか、引き続き注目していく必要があります。