2018年、千葉県柏市立柏高校で吹奏楽部に所属していた男子生徒が自ら命を絶つという痛ましい事件が発生しました。部活動の長時間練習が背景にあったと指摘され、遺族は国や教育委員会に改善を求め続けています。しかし、状況は今も変わらず、遺族の苦悩は深まるばかりです。今回は、この問題について改めて深く掘り下げ、現状と課題を探っていきます。
長時間練習の実態と遺族の悲痛な訴え
男子生徒の死後、市が設置した調査検証委員会は、部活動の過酷な長時間練習が自死の原因の一つであったと結論づけました。2018年春から夏にかけての吹奏楽部の練習時間は、月平均192時間30分。授業時間と合わせると、総拘束時間はなんと346時間30分にも及んでいたのです。これは、文化庁のガイドライン(※)で定められた基準をはるかに超えるものでした。
※文化庁「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、「1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日(学期中の週末を含む)は3時間程度」と定められています。
alt千葉こどもサポートネット米田修さん、児玉勇二弁護士、関哉直人弁護士 (右から)
遺族は、文部科学省に対し、柏市教育委員会への指導や国の部活動ガイドラインの周知徹底を求めてきました。しかし、柏高校では長時間練習が依然として続いており、2023年3月26日、遺族は日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立て、都内で記者会見を開きました。
柏市教育委員会の対応と課題
柏市教育委員会は、取材に対し「来年度には、部活のあり方を検討する方向」と回答しています。しかし、具体的な対策や改善策は示されておらず、遺族の不安は解消されていません。
遺族代理人の関哉直人弁護士は、「国のガイドラインは全国で順守されるべきものであるにもかかわらず、柏高校ではガイドラインをはるかに超える長時間練習が行われ、休養日も不足していた」と指摘しています。
ガイドラインと現実の乖離:柏高校の独自方針
文化庁とスポーツ庁は、2022年に新たなガイドライン(学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン)を公表し、平日の部活動の練習時間は「長くても2時間程度」、休日は「長くても3時間程度」とする基準を改めて周知しました。しかし、柏市では各校の“独自の方針”が認められており、柏高校では平日は「原則3時間以内」、週休日と休日は「6時間以内」と定められています。これは、国のガイドラインに明らかに反するものです。
関哉弁護士は、「柏市とは面談も行っているが、現場はガイドラインを受け入れていない。ガイドラインに反して部活を行う地域があっても、子どもの心身に地域差はない。生徒が亡くなったとき、誰が責任を取るのか」と訴えています。
部活動の未来:子どもたちの健全な成長のために
部活動は、生徒の成長にとって重要な役割を果たしています。しかし、過度な練習や指導は、生徒の心身に深刻な影響を与えかねません。生徒の安全と健全な成長を守るためには、国や教育委員会、学校が連携し、ガイドラインの遵守を徹底する必要があります。また、地域社会全体で部活動のあり方を見直し、子どもたちが安心して活動できる環境を整備していくことが求められています。
alt「部活動ガイドライン」に関する資料
この問題は、柏高校だけの問題ではありません。全国の学校で、同様のことが起こっている可能性があります。私たちは、この問題を他人事と思わず、真剣に向き合っていく必要があります。子どもたちの未来を守るために、今こそ行動を起こすべき時ではないでしょうか。