物価高と人手不足が飲食業界を揺るがす中、特に焼き肉店の倒産件数が過去最多を更新し、深刻な局面を迎えています。一方で、予約が困難なほどの人気店や繁盛するチェーン店も存在し続けており、業界内で「明暗」がはっきりと分かれているのが現状です。一体何がこの差を生み出しているのでしょうか。本稿では、最新の調査データと専門家の見解を基に、焼き肉業界の現状と生き残りの鍵を探ります。
飲食業界の苦境と焼き肉店の「冬の時代」
昨今、外食産業全体で倒産が増加傾向にあり、大手牛丼チェーンが値下げに踏み切るなど、消費者の節約志向は顕著です。その中でも焼き肉店は、仕入れ価格や光熱費、人件費といったコスト増と、価格転嫁による顧客離れという二重の苦境に立たされています。
活気ある焼き肉店の様子
記録的な倒産件数とその主な原因
東京商工リサーチの調査速報値によると、2025年の焼き肉店の倒産件数(負債1千万円以上)は10月30日時点で46件に達し、前年の年間最多記録45件を既に上回りました。倒産の原因で最も多いのは「販売不振」で、全体の84.7%を占めています。背景には、輸入牛肉や野菜の仕入れ価格、光熱費、人件費などの高騰があります。これらのコスト増を企業努力だけでは吸収しきれず値上げを余儀なくされた結果、それが顧客離れを引き起こし、さらに売上が落ち込むという負のスパイラルに陥るケースが多発しました。
小規模店の脆弱性とコロナ禍からの転換
従業員規模別に見ると、倒産した焼き肉店の9割以上(42件、91.3%)が10人未満の小規模店でした。これは、経営体力に乏しい小規模店がコスト増の影響を特に強く受けたことを示しています。また、コロナ禍では高い換気能力が評価され、ラーメン店や喫茶店が苦戦する中で焼き肉店は集客力を高め、倒産件数が大幅に減少していました。しかし、その特需も終わり、現在はまさに「冬の時代」を迎えていると言えるでしょう。
繁盛店が生き残る秘訣:外食消費の二極化
このような厳しい状況下でも、常に満席で予約の取れない人気店や活気あるチェーン店が存在する事実は、成功と失敗の分かれ道があることを示唆しています。国内外でブランド和牛の焼き肉店をプロデュースするURVグローバルグループCEOの松本尚典氏は、この明暗について「市場から退出している店の多くは、お客様の立場で表現すると、『味の割に⾼い店』だと思います」と分析します。
現在の外食消費は「安価なほど良い」という層と「美味しければ高価でも構わない」という層に二極化しています。特に後者においては、富裕層を中心にインフレ下でも旺盛な消費が続いています。松本氏は、淘汰される店はこれらどちらの顧客層の要望水準も満たせていないと指摘。つまり、価格競争力がないか、高価格に見合うだけの美味しさを提供できていないかのいずれかであると解説しています。これは、参入業者の増加による競争激化がもたらした必然的な現象だと考えられます。
結論
焼き肉店の倒産件数が過去最多を更新した背景には、物価高、人手不足によるコスト増、そしてそれが引き起こす値上げと顧客離れの負の連鎖があります。特に小規模店がその影響を強く受けている一方で、成功している店は、外食消費の二極化を見据え、明確な価値提案ができていると言えるでしょう。これからの焼き肉業界では、単に美味しいだけでなく、価格に対する価値をいかに顧客に納得させるかが、生き残りのための重要な鍵となります。





