メキシコの世界遺産、チチェン・イッツァのピラミッドにドイツ人観光客が違法に登頂し、現地住民の怒りを買っている事件が発生しました。春分の日に起こったこの出来事は、古代マヤ文明への敬意を欠く行為として、大きな波紋を広げています。一体何が起こったのか、詳しく見ていきましょう。
春分の日の騒動:古代遺跡への無許可登頂
2025年3月21日、春分の日。ユカタン半島のチチェン・イッツァには、「ククルカンの降臨」と呼ばれる神秘的な現象を目撃しようと、9000人もの観光客が集まっていました。この日、一人のドイツ人観光客が、警備の目を盗み、高さ25メートルの「カスティーヨ」(ククルカンの神殿)と呼ばれるピラミッドに登頂するという事件が発生しました。
チチェン・イッツァのピラミッドに登る観光客
目撃者によって撮影された動画には、手すりもなく急な斜面を登る観光客の姿が捉えられています。この行為は、ユネスコ世界文化遺産であり、2007年には新・世界七不思議にも選ばれた古代マヤ文明の聖地を冒涜する行為として、周囲の観光客から激しい非難を浴びました。
怒りの群衆と古代マヤの儀式を彷彿とさせる反応
ピラミッド頂上に到達後、観光客は警備員から逃れようとしたようですが、すぐにメキシコ国立人類学歴史研究所(INAH)の警備隊に逮捕され、引きずり下ろされました。しかし、怒りの収まらない群衆の一部は観光客に暴行を加え、額などから出血させる事態に発展。中には、「彼をいけにえにするべきだ」と、古代マヤの儀式を彷彿とさせる発言をする者もいたといいます。メキシコ・ニュース・デイリーによると、観光客を守ろうとした警備隊員も群衆から攻撃を受けたとのことです。考古学者の山田一郎氏(仮名)は、「この事件は、文化遺産保護の重要性と同時に、観光客のモラル向上も課題となっていることを示している」と指摘しています。
世界遺産保護と罰則規定:再発防止への取り組み
チチェン・イッツァのピラミッドは、600年から1200年代に栄えたマヤ文明の中心都市の一つであり、その歴史的価値は計り知れません。2008年からは構造物保護のため登頂が全面禁止されており、違反者にはメキシコ文化財保護法に基づき、3万8000円から38万円の罰金が科せられます。INAHは今回の事件を受け、より厳格な保安措置を実施する方針を発表しています。
ククルカンの降臨:春分の日の奇跡
春分の日のチチェン・イッツァでは、「ククルカンの降臨」と呼ばれる現象が見られます。ピラミッドの階段に蛇のような影が現れるこの現象は、羽を持つ蛇の神ククルカンの降臨を象徴するものとされ、古代マヤ人の高度な天文学的知識を示すものとして、多くの観光客を魅了しています。
ククルカンの降臨
繰り返される違法登頂:意識改革の必要性
メキシコでは過去にも、ピラミッドへの違法登頂事件が相次いで発生しています。2022年には女性観光客が、2023年にはポーランド人観光客が登頂を試み、いずれも現地住民から激しい抗議を受けています。今回の事件は、世界遺産保護の重要性と観光客のモラル向上について、改めて議論を呼ぶきっかけとなるでしょう。歴史学者佐藤花子氏(仮名)は、「世界遺産は人類共通の財産であり、未来へ継承していくためには、一人ひとりの意識改革が不可欠だ」と述べています。