中国政府による少数民族同化政策の現状、特に内モンゴル自治区におけるモンゴル語教育の制限と、それによって引き起こされている海外への移住「潤」について掘り下げます。
内モンゴル自治区におけるモンゴル語教育の制限
2020年、中国政府は内モンゴル自治区の学校教育において、モンゴル語の使用を大幅に縮小し、標準中国語(漢語)教育を強化する方針を発表しました。この政策は、習近平指導部による少数民族同化政策の一環と見られています。 当時北京特派員として現地に赴いた際、モンゴル族の教員や保護者からの激しい反発、そして抗議デモを目の当たりにしました。残念ながら、抗議活動はすぐに鎮圧され、デモ参加者や反対派は厳しい処罰を受けました。
内モンゴル自治区の電光掲示板
この政策により、モンゴル族の文化と言語継承は危機に瀕しています。取材協力者も当局の監視対象となり、連絡が取れなくなるなど、現地での取材は困難を極めました。ジャーナリストとして、取材協力者が不当な扱いを受けるのは非常に辛い経験でした。
ウイグル、チベット…そして内モンゴル
内モンゴル自治区での経験をきっかけに、私はウイグル族やチベット族など、他の少数民族に対する抑圧についても取材を続けました。警察官による宿舎への侵入や軟禁、尋問など、身の危険を感じる場面もありましたが、取材協力者の安全を最優先に考えて行動しました。帰国後、家族との穏やかな生活を取り戻し、ようやく当時の緊迫した状況を思い出す頻度が減ってきました。
「潤」という選択
近年、中国の富裕層や中間層の間で「潤(ルン)」と呼ばれる海外移住が広がっています。これは、中国語で「逃げる」を意味する「run」と同じ発音であることから、国外脱出を意味する隠語として使われています。新型コロナウイルス対策による都市封鎖への反発がきっかけとされていますが、習近平指導部の強権的な統治や経済不況も背景にあると考えられます。
モンゴル語教育削減に抗議する生徒たち
最近、日本で働くモンゴル族の方にお話を伺う機会がありました。彼も「潤」を選択し、日本に来た一人です。内モンゴル自治区では、公文書の表記が変更され、教科書からもモンゴル語が排除されているとのこと。公務員にはモンゴル語の歌唱が禁止され、大学受験も漢語に限定される動きが進んでいるそうです。
自由への渇望と不安の狭間
日本で自由を感じながらも、彼は当局のスパイの存在を恐れ、日本社会に溶け込めずにいるそうです。家族とのビデオ通話が唯一の心の支えだと語る彼の言葉に、同化政策から逃れてきた人々の不安と苦悩が垣間見えました。
専門家の見解
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の東アジア地域専門家、田中一郎氏(仮名)は、「中国政府の少数民族同化政策は、文化的多様性を損ない、人権侵害につながる重大な問題だ」と指摘しています。 少数民族の言語や文化を守るための国際社会の連携強化が求められています。
私たちにできること
少数民族同化政策から逃れて「潤」を選択した人々の現状に目を向け、彼らが安心して暮らせる社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考えていく必要があるのではないでしょうか。