そろそろ根源的に問わねばならないだろう、自民党は本当に「保守政党」なのか、と。大きな金銭スキャンダルは戦後いくつもあった。そのたびに国民は自民党にお灸をすえ、厳しい審判を下した。それでも最後は岩盤保守層が自民党の命脈をつなぎとめた。なぜなら「保守政党」だからだ。しかし今、その前提条件が瓦解しつつある。LGBT理解増進法、夫婦別姓への傾斜……。岩盤保守層も自民党を見限りつつある。かつて評論家の江藤淳は「社会党化」する自民党に警鐘を鳴らしたが、事態はむしろ深刻化しているのではないか。そんな左傾化する自民党の病理を一刀両断する政治学者・岩田温氏の新刊『自民党が消滅する日』(産経新聞出版)が発売後たちまちアマゾンでジャンル1位となるなど人気を博している。保守系議員の勉強会テキストとして相次ぎ採用され、岩田氏への講演依頼もひきもきらないという。永田町界隈で存在感を見せつつある話題の同書から一部抜粋・再構成してお届けする。
自民党が政局に勝ち続けた結果、それで国は良くなったのか?
自ら保守政党を謳いながら保守勢力を裏切っている自民党とは一体何なんだろうか。自由民主党には力がある。この力の原点は何か。自由民主党の幹事長を務めた野中広務が端的に語っている。
「あらゆる勝負の基本は分断と懐柔。そのためには、常に情報収集をし、人間関係を深めておかなければなりません」(『憎まれ役』文藝春秋)
確かに政治とはそういうものだ。だが、彼の言葉から思想や信念の重要さを感じるだろうか。野中広務は保守主義とは何か己の言葉で説くことができただろうか。自由民主党が堕落し、腐っているというのはこの点だ。政局で勝てばよいと考えているだろう。しかし、我が国は少しもよくならない。国を憂える思想信条無くして、何のための政治家なのか。
安倍晋三首相以前の自民党は「保守政党の矜持を全く欠いていた」
自由民主党とは保守主義を信じる政党なのだろうか。多くの国民が疑問を抱いているはずだ。党の政綱の六「独立体制の整備」の中には、「平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う」と書いてある。言葉だけは立派ではないか。この宣言を読む限り、憲法改正こそが自由民主党の一丁目一番地のはずである。自分たちでそのように謳い上げているのだ。
しかしながら考えてみると、自由民主党とは自らの政党の理念を裏切るようなことを次々と行ってきた政党である。多くの若者が自由民主党を保守政党だと信じている。だが、それは安倍晋三という稀有な政治家が総理大臣になったためだった。安倍晋三以前の自由民主党は保守政党としての矜持を全く欠いていた。この惰弱な情けない自民党を一喝したのが安倍晋三だった。