交渉期限を明言している年内に進展がなければ、北朝鮮は対米交渉の放棄を視野に政策を転換する準備を進めている。
金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が4月の演説で交渉期限を年内に区切ったのは、2020年に入れば米国が大統領選モードに入ることに加え、16年の党大会で定めた経済政策の「5カ年戦略」が最終年を迎えるためだ。30年以上党大会を開かなくとも統制を保つことができた時代と異なり、正恩氏は公的手続きを経なければ権力の正統性を保つことができない。21年に次の党大会で成果を誇示するため、交渉を急ぐ必要があった。
もちろん、北朝鮮側も現時点で経済制裁の全面解除が現実的だとは考えていない。10月に実務者交渉が決裂した際、北朝鮮側代表は「過去1年間、米国は15回も制裁を発動し合同軍事演習も再開した」と不満を述べた。交渉妥結を見据えた北側の要求は、今後の追加制裁と米韓演習の停止を書面化させることにある。正恩氏は昨年4月、核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験中止を明言しており、「同様に確実な保証を与えろ」というのが彼らの論理だ。
交渉が決裂した場合の「プランB」は、数年かけて中露との接近を強め、国連安保理で「長年核実験は行われておらず、制裁の維持は不当だ」と主張させることだ。時間はややかかるとしても、悪化する米国-中露関係を考えれば非現実的とはいえない。
すでに従来の政策を転換し、「新たな道」を探る動きは表面化している。経済協力事業の一環として金剛山(クムガンサン)観光地区に韓国側が建設した施設について、北は強制撤去の「最後通告」を送った。韓国では事業再開を求める揺さぶりにすぎないと解釈する見方もあるが、あまりに楽観的だ。実際には北が韓国への期待を完全に絶ち、単独での事業展開にかじを切ったことを意味する。(聞き手 時吉達也)