(CNN) 約2000年前のベスビオ火山噴火で焼け焦げ、今なお巻かれたまま解読作業が進められている「ヘルクラネウムの巻物」のうちの1巻の著者と題名が、研究者によって明らかになった。
巻物を開かずに解読を目指すコンペ「ベスビオ火山チャレンジ」によると、「PHerc.172」と名付けられたこの巻物は、古代ローマの都市ヘルクラネウムから出土した数百巻のうちのひとつ。ヘルクラネウムは、西暦79年のベスビオ火山噴火によって火山灰に埋もれた町だ。
これらの巻物は、かつてユリウス・カエサルの義父が所有していたとされる別荘で見つかり、18世紀にイタリアの農民によって発見された。
巻物は激しく焼けて炭化しており、状態はきわめて脆(もろ)い。長年にわたって、学者たちは重りや化学薬品、ガス、粉砕といったさまざまな方法で巻物を開こうと試みてきたが、多くの場合、それは損傷や破損につながった。
ベスビオ火山チャレンジは2023年に始まり、世界中の研究者たちに、巻物を仮想的に開いて解読に挑戦するよう呼び掛けている。
今回、ドイツのビュルツブルク大学の大学院生であるマルセル・ロス氏とミカ・ノワク氏が、PHerc.172の著者と題名を明らかにした。また、ベスビオ火山チャレンジの研究員ショーン・ジョンソン氏も、ほぼ同時期に同じ発見をしている。巻物を所蔵する英オックスフォード大学ボドリアン図書館が6日に発表したプレスリリースによると、どちらの発見も同コンペのパピルス研究チームによって独立検証された。
解読された文字により、この巻物は古代ローマの哲学者ピロデモスによる「悪徳について」であることが特定されている。これは、ピロデモスの倫理学論考「悪徳とその反対の美徳、およびそれらが誰に存在し、何についてであるか」の一部とされ、この巻が第1巻である可能性もあるが、現時点では明らかではない。
ボドリアン図書館によれば、巻物に記された番号はアルファとも解釈できることから、第1巻である可能性が示唆されているが、デルタなど他の番号である可能性もあり、その場合は第4巻にあたるという。
これまで学者たちは、「悪徳について」の第1巻は「お世辞について」という文だと考えてきたが、PHerc.172の内容はそれとは一致しない。
ボドリアン図書館によると、ピロデモスはエピクロス派の哲学者であり、その教えは「快楽の追求を良き人生の中心に据える」ことを強調していた。ヘルクラネウムの別荘で発見された巻物の大半はピロデモスの著作だった。
英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのパピルス学研究者で、ベスビオ火山チャレンジのパピルス研究チームの一員でもあるマイケル・マコスカー氏は「もしこれが第1巻であることが判明すれば、ピロデモスの倫理観についてさらに多くを学び、『悪徳について』の全体像をより深く理解する絶好の機会となる」と述べた。
今回の発見は、巻物の題名が解読された初めての事例であり、ベスビオ火山チャレンジにおける最新の成果でもある。
23年10月には、コンピューター技術と高度な人工知能(AI)を駆使し、巻かれたままの古代パピルスのひとつから、初めて完全な単語が解読された。その単語は「porphyras」で、ギリシャ語で「紫」を意味する。
今年2月には、PHerc.172の文字列を調査していた研究者たちが、「むかつき」を意味する単語を特定している。