海上保安庁の自己都合退職者数が2024年度の1年間で389人に上り、実際の人員(実員)が減少に転じたことが、海保への取材でわかった。中国公船による沖縄県・尖閣諸島周辺海域への接近や領海侵入の急増を受け、政府が海保の定員を毎年100~400人前後増やしてきた13年度以降、前年比で実員が減少するのは初めて。
政府は尖閣周辺の領海警備など6分野を重点に定めた「海上保安能力強化に関する方針」を掲げる。自己都合退職者は21年度から4年連続で300人を超えており、方針への影響が生じかねない。
海保によると、24年度の海保の自己都合退職者389人のうち、20歳代が243人、30歳代が93人で計336人(86%)を占めた。今年3月末の実員は、前年比6人減の1万4123人だった。
海保は離職増の一因に、社会情勢の急速な変化があると分析する。国内では共働き世帯が増え、転居を伴う異動を敬遠する意識が強まってきた。
大半の海保職員は2~3年ごとに転勤を繰り返し、単身赴任も少なくない。大型船の乗組員は10日以上に及ぶこともある航海の間、インターネットに接続できず、家族とも満足に連絡が取れない状態が続いてきた。
一方、法令で定める海保の定員は、09年度の1万2593人から15年間で2割近く増え、24年度には1万4788人となった。特に、中国海警船が尖閣周辺の接続水域で年200日を超えて確認された13年以降、政府は海保の定員を年度平均170人のペースで拡充し、大型巡視船の保有も54隻から78隻に増えた。29年度には超大型の多目的巡視船を含め91隻となる。
その結果、定員と実員の差(欠員)は徐々に広がっている。13年度末には259人だった欠員は、24年度末には665人と初めて600人台に達した。中でも大型巡視船に乗る「船員」では355人(欠員率12%、1月現在)に上る。
海保は領海警備に加え、海上での人命救助や犯罪捜査、航行の安全、海洋調査などを広く担う。実員と定員の隔たりが広がれば、船艇の運用や安全運航にも影響が出かねない。読売新聞の取材に対し、海保の古川大輔人事課長は「現状を重く受け止めている。職員の再採用強化を始めとして、前例にとらわれず、やれることを全てやるつもりで対策を考えていく」と話した。