世界を混乱させている “トランプ関税” の見直しを求め、赤沢亮正経済再生担当相は、5月1日(日本時間2日)、アメリカ側と2回めの協議をおこなった。
報道によると、日本の最大の関心事である自動車をはじめ鉄やアルミへの関税について、アメリカ側は交渉の枠外との認識を表明。協議の対象はあくまで「相互関税」の上乗せ分(24%のうち14%分)だけだと、アメリカ側は主張しているという。協議は今月中旬以降も閣僚級で続けられる。
赤沢大臣が交渉を終えた直後、本誌は石破茂首相を直撃。トランプ関税に対し、首相は開口一番、遺憾の意を示した。
■日本はアメリカに世界最大の投資を続けてきた
「それぞれの国には比較優位、つまり得意な産業があります。ある国は農業が得意、ある国はものづくりが得意というふうに、世界で200カ国近くが、それぞれ得意分野とそうじゃない分野を持っています。
だからこそ貿易というものが成り立つわけです。にもかかわらず、相互関税みたいに一律同じ税率だと言われると、それって何でしょうかね、と普通は思いますよね。
私が議員になる5年前の1981年には、アメリカの貿易赤字の7割は日本に対するものでした。それから40年以上経った今、アメリカの貿易赤字のトップは中国、2番めがメキシコ、3番めがベトナムで、日本は7番め。1980年代と比べてまったく状況が異なり、アメリカの日本に対する貿易赤字は大きく減っているのです。
一方で、1982年にホンダが初めてアメリカに工場を作って以降、日本はアメリカに対して世界最大の投資をし、現地の雇用を生み出してきました。投資額も雇用人数も、ここ5年ぐらいずっと世界トップです。
こうした背景を踏まえて、私がトランプ大統領に伝えたのは、どっちかが得をしてどっちかが損などということではなくて、お互いの力を合わせてよりいいものを作ろうということ。
そして、アメリカに雇用を生み出し、日本の雇用も失わないこと。そんなうまい話があるのかって思われるでしょうが、日米両国のポテンシャルはとても高いですから、今、着地点を見出すための努力をものすごく一生懸命にやっているところです」
相互関税は上乗せ部分が一時停止中だが、いざ発動されたら、国内産業への支援をおこなうのか。
「まず、トランプ関税に関係なく、日本はもっと国内の需要を増やしていかなければなりません。また、日本の優れた製品を必要としている国は世界中にたくさんあり、それも大きな収入源になるでしょう。
連休中はベトナムとフィリピンを訪問し、首脳会談を重ねました。現地には多くの日本企業が進出し、雇用や所得を生み出しています。今後も、たとえば両国の産業基盤を支援し、その協力関係を通じて日本製品の販路拡大をしていくなども考えていかなければなりません。それは、トランプ関税があってもなくても変わりません」
■神がトランプ大統領を選ばれた
石破首相は、2月にトランプ大統領と初めて対面した。トランプ大統領はいったいどんな人物なのか。
「やっぱり、会う前はかなり緊張しました。ゼレンスキー大統領との会談が話題になったように、トランプ大統領は相手の態度によっては、それはもう強い言葉で言い返すこともいとわないのだろうと思っていましたから、会談前はかなり身構えました。
でも、トランプ大統領が『よく来た』と言ってホワイトハウスの玄関で出迎えてくれたときの印象は、私が抱いていたものとはまったく異なりました。
実際にお会いして、トランプ大統領からは『今まで忘れられてきた人々に対して、雇用と所得増を実現するために自分は大統領になった』という並々ならぬ信念が感じられました。
演説中に銃撃されたとき、すぐに立ち上がり、その瞬間が写真に撮られましたが、トランプ大統領はその写真を表紙にした写真集を私にくれました。
あの出来事について、私は同じキリスト者としての視点から、『やはり神があなたを選ばれたのではないですか』と言ったところ、大統領は深く頷いていました」
■防衛費の負担増は求められていない
トランプ大統領は在日米軍の駐留経費に不満を漏らし、米政権内でも日本の防衛費をGDP比3%にすべきとの声があるとも報じられている。トランプ大統領から防衛費の負担増を求められているのか。
「まったくないですね。そもそも防衛費はその国自身が決めるべきものであり、よそから何パーセントにしろと言われて決めるものではありません。トランプ大統領との2月の会談時にも、『日本が決めます』とすでに伝えています。
戦後間もない1948年、アメリカ議会でヴァンデンバーグ決議というものが採択されました。これは、アメリカが他国を防衛する義務を負う条約を結ぶ場合、その相手国に対して、自らの防衛のための自助努力と同時に、アメリカに防衛面で協力することを求めるものです。
トランプ大統領の見方は、『アメリカは世界中に軍隊を派遣して世界の平和を守ってきた。そして、市場を開放して、世界中からいろんな品物を輸入してきた。その結果、アメリカは弱く、貧しくなった。だからそのツケは支払われるべきだ』ということなのでしょう。
しかし、日本は戦後、ヴァンデンバーグ決議に沿うように防衛努力を着実に積み重ねてきました。自衛隊は憲法で認められた枠内でその行動範囲を広げ、自衛力を向上させるとともに、アメリカにも協力してきましたし、だからこそ日米同盟は『地域の公共財』と言われるまでになっているのです。ですから、GDP比3%云々というのはそもそもナンセンスです」
■トランプ大統領がロシアについて考えていること
第2次トランプ政権になってから、アメリカとロシアは接近しているように見える。ウクライナ問題について、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領に歩み寄り、逆にヨーロッパとは足並みが揃わない印象だ。激動の国際情勢において、日本が取るべき外交政策は何か。
「第一に日米同盟を基軸とし、ロシアや中国を抑止しつつ、ウクライナの戦争をどうやったら早く終わらせられるか、そして、戦闘終結後のウクライナの復興に日本は何ができるのか、ということを考えておかなければなりません。
米露関係についても、『トランプはビジネスマンなので、プーチンと相性が合う』という説がありますが、私はトランプ大統領はむしろ『アメリカを再び偉大にする』ためにロシアがどれだけの意味を持つかということを考えているのではないかと思います。
(4月末に)ベトナムに外遊した際、アメリカという大国を相手に、北ベトナムはどうやって戦争を終結させたのか、そして、国連が果たした役割はなんであったのかということについて考えました。この問題意識は、今のロシアとウクライナの戦争にも通じると思います。
トランプ大統領はアメリカにとって損になるようなことを嫌います。戦争はいちばん不経済なことだから、トランプ大統領は『平和であるべき』と主張しているのだと思います。また、武力によるウクライナ併合が実現されたら、『じゃあ、うちもやろうかな』みたいな国が出てきかねない。そのリスクも考えているのでしょう」
■妻の服は「似合っていれば、それでいい」
話は変わって、先月末の石破首相の外遊時、佳子夫人が着ていた白い花柄のワンピースについて、インターネット上では「素敵」「お似合い」というコメントが多く見られる一方、庶民的な価格で買える服だったためか、一部の女性誌で「下着のように見えて、だらしない」といった批判もあった。妻のファッションへの反対意見を受け、夫の胸中は?
「私は素敵だなと思います。うちの奥さんには、ブランド志向がありません。似合っていれば、それでいいと思います。最初から批判することを決めている人は、高いものを着れば『庶民離れしている』と言うし、リーズナブルなものを着れば『ファーストレディーらしくない』と言うのではないでしょうか」
■目指すは「付加価値創出型」の経済
日本国内を見れば、物価高騰が止まらない。立憲民主党の「食料品の消費税ゼロ」をはじめ、野党は国民の負担軽減策を掲げるが、石破政権は国民の生活苦にどう対応するのか?
「2024年は33年ぶりの賃上げ水準(主要企業は1991年以来の5%代に達した)となりましたが、企業が十分な設備投資をおこなえているかというとそうではない。また、下請け先まで十分なお金が支払われていないところもあります。結果、GDPは伸びていません。
GDPというのは価値の総和だから、投資をしていかなければGDPは伸びない。コストカット型の経済から、いわゆる付加価値創出型の経済に転換しなければなりませんが、まだ道半ばです。加えて、今は円が弱く、エネルギーでも食料品でも日本は自給率が低いから、輸入に頼れば当然物価は上がります。
とにかく、企業が下請けにきちんとお金を払いつつ投資もおこなうことで、好循環を生み、物価上昇を上回る賃金上昇が実現するよう努めます。
それから、米価を抑えるためにさらに備蓄米の放出を続け、ガソリンの価格も落ち着かせて、少なくともウクライナ戦争前の水準には戻ったね、と感じてもらえるところまで、政策を実行していきます」
内憂外患が続く日本。この危機を石破政権はどう打開するのか。物価高に悩む国民から厳しい視線が注がれている。
取材・文/深月ユリア