【台湾有情】逃げる屋台



台湾・台北

 昨年から台北の西門町という繁華街の近くで暮らしている。週末の夜になると、駅前の歩行者天国は人ごみで歩くのもままならないほどにぎわう。半分は外国からの観光客、残りは若者だろうか。道の両脇には移動式の屋台が並び、食べ物のにおいが漂う。

 苦手な人なら鼻をつまむ「臭豆腐」もあるのだが、生から炭火で焼いたトウモロコシや、サツマイモを練りこんだ一口大のドーナツのような「地瓜球」など、つい食べながらぶらぶらと歩きたくなる。

 ただ、いつも同じところに同じ店があるわけではない。不思議に思っていたが、どうやら営業許可を取っていないかららしい。何台もの屋台が人波をかき分けて、大急ぎで移動しているのに出くわすことがある。「警察が来た」と口々に連携しあい、揚げ物は鍋の油に入ったまま、注文したお客さんまで仕方なくついてきていた。

 別の日には、屋台のおじさんが違反切符を切られていた。だが、警察官も毎日のことだからか、逃げる屋台からは少し離れ、歩いて追いかけるのが、いかにもおおらかで台湾らしい。

 最近は、「夜市」を見学する日本の修学旅行生が、衛生面を考えて買い食いは控えると聞く。西門町に限って言えば一期一会、目の前の屋台にはもう二度と会えないかもしれませんよ。(田中靖人)



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