ウクライナに軍事侵攻中のロシアでは、大量のドローンやミサイルを調達し戦場に投入しているが、そうした兵器の中に、日本企業の部品が組み込まれているという。自社商品が、流れ流れて独裁国家の武器調達や人権侵害に一役買ってしまうケースは少なくない。「勝手に使っただけ」「ウチは知らない」の言い訳はもはや通らない時代に、企業はどう対応すべきなのか。※本稿は、羽生田慶介『ビジネスと地政学・経済安全保障』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
● ロシア軍のウクライナ侵略に 日本製の民生品が使われている
ある日突然、身に覚えのない「罪」で国際的な非難の声にさらされる日本企業が増えている。自社製品に強制労働によって生産された原材料・部品が含まれていたことや、自社製品が人権侵害を助長する機器や武器の部品として使われていたことを報道で知るケースだ。企業にとっては、まさに寝耳に水、青天の霹靂だ。しかし、今や「知らなかった」では済まされない時代となった。
調達面での人権侵害の排除は、企業にとって喫緊の課題だ。米国のウイグル強制労働防止法(UFLPA)のように、強制労働などの関与を理由とした輸入差し止めの事例がすでに多数出ている。これに対する日本企業の取り組みも進みつつある。これに加えて、日本企業が対応を迫られているのが、サプライチェーンの「川下」、つまり、販売後の製品の行方の管理だ。特に、ある製品の用途が問題となった際に、自社製品がその部品として使われていたために対応が必要となるケースが増えている。
2024年6月、米シンクタンクの高等国防研究センター(C4ADS)が作成した報告書の概要をフィナンシャル・タイムズ紙が報じた。その記事は、日本の工作機械メーカーのコンピューター数値制御(CNC)機器がロシアの軍需工場で使用されていると指摘していた。記事によれば、それらの機器はアラブ首長国連邦(UAE)や中国に拠点を置く企業を経由してロシアの軍需工場に渡った。その工作機械メーカーは、自社製機器がミャンマーの工場で武器製造に使用されているとの指摘も受けた。
ウクライナ軍が公開したロシア軍使用のドローンには、多数の日本製部品が含まれていた。カメラやコネクタ、電池など、いずれも冷蔵庫などの家電製品やゲーム機向けに用いられる民生用の汎用(はんよう)品だ。ウクライナ政府が作成したロシア軍兵器に用いられていた外国製部品リストには、100を優に超える日本製部品が掲載され、製造元として日本の大手メーカーがこぞって名を連ねていた。
● ウイグル人の行動を監視するカメラに 日本企業の部品が使われていた
問題となっているのは戦場だけではない。2023年1月には、在日ウイグル人によって設立された日本ウイグル協会と国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウが、中国・新疆ウイグル自治区で住民の行動監視に用いられている中国・ハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)製の監視カメラに、日本企業7社の部品が組み込まれていたと発表した。
ハイクビジョンは、強制労働への関与を理由に米国のエンティティー・リスト(編集部注/米国商務省産業安全保障局が発行している貿易上の取引制限リスト)に掲載され、取引が制限されている企業だ。日本企業7社の中には、人権方針を策定し、サプライチェーン上の人権侵害の排除に努めている企業も含まれているが、それでも深刻な人権侵害に関与している可能性への認識が不足していると批判を浴びた。
これらの中で、名前を挙げられた日本企業が、武器製造や強制労働に関与している企業と直接取引したケースはまずないだろう。輸出管理の対象ではない製品の販売後の流通経路をすべて把握することは至難の業だ。洗濯機や冷蔵庫などの最終製品から取り出された部品が使われた例や、市場に出回っている中古品が使用された例も報じられている。